医療機関と就労支援機関の連携の難しさ


ーー「ハローワーク障害者相談窓口の精神障害者の就労件数のうち、医療機関と連携した事例は3.6%」というデータがありますが、数字だけ見ると医療機関と就労支援機関の連携は難しいのか印象を受けたのですが、現状としてどうなんでしょうか。

田中:例えば就労支援機関に通う脳出血後の高次脳機能障害の方が、記憶障害があり、お薬の飲み方や症状について医師に説明を受けた内容を忘れてしまっているとします。再発を防ぐためにも本人が医師の指示を忘れないように支援機関がサポートする必要があります。また、運転など職種によっては主治医の就業許可が必要な場合もあります。実際、熱心なハローワークのご担当者が、20年前の交通事故による記憶障害を知らずに求職活動を続け、経済的に追い込まれていた方を、高次脳機能障害外来に連れてきてくださり、高次脳機能障害と診断されて支援付きの就職活動に切り替えられたこともありました。こうした自力では適切に医療を受けることが困難なケースについては、支援機関側の対処として、本人に通院同行の了承をとり、医療機関に対しては本人の同意を得ているので、次回診察に支援員が同席したいと申し出てくだされば、医療機関側は対応が可能です。逆に医師の側もご本人の症状が分かり、診療がしやすくなります。でも、医療と福祉というふうに組織が異なると、支援機関が診察まで立ち入っていいのかと、一歩踏み出しかねる場合の方が多いのが実情のようです。

牧田総合病院受付近く。まるでホテルのよう。


 

 

障害名に囚われない、個別性の重要性


ーー私達も生きていれば、障害のある人と働くことになるかもしれないですよね。周りが気を遣いすぎてミスを指摘できないとか不和が起きることがあるそうですが、もし職場に障害のある方がいた場合に、迎える側はどうしたらいいでしょうか。

田中:病気や障害名にとらわれないでその人を見るということが大事だと思います。病気や障害名が一緒でもその人の個性とかスキルによって、能力も困りごとも配慮事項も全然異なります。あとは、障害者雇用であっても仕事である以上対等だということです。仕事なので、言っちゃいけないことはないはずなんです。業務をするために必要なこと、困ることは伝えていいです。私も最初は、これ言っちゃいけないのかな、ルールは別にしなきゃいけないのかなとか、特別扱いしなきゃいけないのかなっていう気持ちになりました。でも仕事でお雇いしてお金を払っているので、そこは対等でいいんです。

 

田中:面白いと感じるのは、多少障害が重かったりできないことが多くても、まじめで、相手を悪く思わないような方は、部署になじんでいけることが多いということです。また、コミュニケーションが円滑で業務が整理されていて、チームワークに長けた部署というのは、どういう障害を持つ方だったら受け入れられるかの回答も明確ですし、個性に応じた工夫が迅速です。結局、組織としての質を問われるのだと感じます。


取材・文/ヒオカ
撮影/柏原力
 

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