これだけ本が売れない時代になると、売るのは出版社の仕事なので……と涼しい顔もしていられない。感覚的には、半分くらいは著者が責任を負っていると思っている(本音を言うと8割くらいなんだけど、そこまで自責で考えるのは逆に編集さんや装丁家さん、販促、宣伝、営業など各部門の方々、あるいは書店員のみなさんのお仕事を軽視していることと同じなので、気持ちとして半分くらい)。

けれど、著者にできることは何があるんだろうと考えても、なかなか名案は思いつかない。結局、面白いものを書くしかないという極めて面白くない結論に至るのだ。

『自分が嫌いなまま生きていってもいいですか?』は、8割くらいが書き下ろし。最初の段階では、今までの連載プラス紙幅が足りない分は書き足すという話もあったのだけど、なんとなくそれは断った。

と言うのも、せっかくお金を出していただくのに、無料でwebで読めるものがそのまま載っているというのは気が引けたからだ。補足するまでもないけど、決してwebの連載をそのまま書籍化している書き手を批判しているわけではない。単に、僕が自分にそれだけの価値を感じられないだけ。なら、パワーや時間がかかってもいいから、新しいエピソードがいっぱい入っている方が、これまで読んでくれた方にもバリューがあるかなという、小心者の僕なりの精一杯の“悪あがき”だ。

「“物を買ってもらうこと=悪いこと”だと感じるのは、結局ヨコがお金を出してもらうだけの価値のある提案ができていないってことじゃない?」

あのときの先輩の言葉がリフレインする。たぶん僕は今も当時の卑屈な思想から抜け出せてはいない。だから、これはお金を出してもらう価値のあるものだと胸を張って言えるようになんとか力を尽くす。

誰かが笑ってくれますように。誰かの心がほんの少し楽になりますように。自分を好きになれない、自分に自信を持てないこの世のすべての人たちが、その苦しみから自由になれますように。文章を書くということは、ほとんど祈りに近いことだと最近よく思う。

 

 

書くことが祈りならば、著者になるということは自分を商品化することに近い。自分嫌い人間にはいちばん向かない領域だ。

 

自分のことを嫌いな人間が、自分の書いたものを売る。このねじれた構造を自分の中で正当化するのは、『スーパーマリオブラザーズ2』より難易度が高い。なんだったらまだ求人広告を売っていた頃の方がよっぽどメンタル的には気楽だった。

それでも、あの頃よりは真っ正面から「買ってください」と言えるものを書けた……ような…気が……する…(小声)。

傷ついても、笑われても、本気で頑張らなければいけない時期が誰しもにあって。僕にとって人生で何度目かの本気のときが今なのだ。あのとき、ちゃんとできなかった「買ってください」を今回できれば、僕は変われるのだろうか。

そんなプレッシャーと覚悟の間で行ったり来たりしながら、まさか営業よりも向いていない職業に就くとは思わなかった……と自分の人生の奇妙さにほんのちょっと笑いがこみ上げている。

 

新刊『自分が嫌いなまま生きていってもいいですか?』

9月29日(金)発売
講談社・刊 1430円(税込)
ISBN:978-4065331040
※リアル書店にてご予約される場合は、ISBNの数字13桁をお伝えいただくと確実です。

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イラスト/millitsuka
構成/山崎 恵
 

 

 

前回記事「人の自意識を狂わせる“肩書き”問題。発売までに僕は「エッセイスト」になれるのか?!」はこちら>>

 
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