――なるほど。でも、面白い人間になるとか、魅力のある人になるって、難しいですよね。

みうら:そもそも本名だけれど「田口トモロヲ」って名前はカタカナ。僕はひらがな。峯田君も、もうひとり、「銀杏BOYZ」の峯田和伸っていうキャラがいるわけで。多分、みんなこうなりたいっていうもう一人の自分を演じているんじゃないかなぁ。ペンネームが必要な仕事をしていない人も、もうひとり別の名前のキャラを作ればいいんじゃないかなって思うんです。それでその人格になろうと思うこと。

――もう一人の自分になりきる……。

みうら:自分のことを好きになるには、もう一つ人格を作るのがいいんじゃないですかね。“ありのままの自分”とかそれが好きならいいけど、嫌いな人もいるでしょ、そりゃ(笑)。

田口:自分の好きな自己キャラクターを作ってみるといいよね。

みうら:なにも素のままの自分である必要はないと思いますから。自分であって他者でもあるもうひとつのキャラをね。

――みなさんが素敵なのは、「好きなことをしている」という感じが、ひしひしと伝わってくるからだとも思います。

「一生って長いようで短い。だから好きなことをやった方がいい」(田口トモロヲさん)

田口:好きなことって、もう自己責任だからやらざるを得ないですよね。好きなことならば努力できる。だって好きなこと以外は努力していないから(笑)。だからやるんじゃなくて、できるって感じかな。僕は向いているとかよりも、やりたいことをやっている。一生って長いようで短い。だから好きなことをやった方がいいですよ。我慢せずにできることの中で、どうなれるかが重要なんじゃないですか。

峯田:僕の場合、音楽活動を始めたきっかけは、メンバーとは友達だったこと。メンバーと一緒にいるのが楽しかったから、プレッシャーも感じずにライブができたんだと思うんです。今もそれをずっと続けているだけ。僕にとっては、好きという気持ち以上に、一緒にやる人のほうが大事かな。

――好きなことを続けていくなかで、ご自身の仕事やキャリアを振り返ったりすることはありますか?

峯田:(両隣の二人の様子をうかがいながら)みんなどうしているんですかね。

田口:みうらさんは自分のことをきちんと大好きだからね。自分の歴史を膨大なファイルにしているよね。

みうら:いやいや、自分のいやなところもファイルしてるから(笑)。作品としてとっておくけれど、基本的に発表してしまったらそこで終わり。過去は終わってしまったことだって強く思うことも大切です。反対に、未来はわからないことって思ってれば気楽だし。

――自分のことは大好きなのに、過去を振り返らない! すごいですね。過去の記憶や恋愛を、いつまでもひきずってしまう人も多いと聞きますが……。

みうら:誰かに肩を叩かれて「それ、終わっているよ」って言ってもらえればよく分かるのにねぇ(笑)。

田口:昔の「元カレ、元カノがよかった……」みたいに言えるのもちょっとうらやましいですけどね。みんな自分の歴史に酔うのが好きなのかな。

みうら:昔の自分と比較しちゃいけないのにねぇ(笑)。

* * * * *

 

2003年に公開され、いまだに愛され続けている映画『アイデン&ティティ』。公開20周年を記念したイベント(2023年12月20日にLOFT 9 SHIBUYAにて開催)には、数多くのファンが押しかけました。会場は、いまだから言える映画の裏話や、峯田さんを発見したときの話などで盛り上がり、最後には峯田さんによる弾き語りも。

 

みうらじゅん(写真左)1958年生まれ。漫画家、イラストレーター。TV番組やメディアにも司会や、コメンテーターとして出演し多彩な才能を発揮している。1997年にはみうらさんが作った「マイブーム」が新語・流行語大賞を受賞。2018年、仏教伝道文化賞沼田奨励賞を受賞。

峯田和伸(写真中)1977年生まれ。シンガーソングライター、俳優。GOING STEADYを結成し音楽活動を開始。現在は銀杏BOYZとして活動。音楽のみならず、近年は連続テレビ小説『ひよっこ』、大河ドラマ『いだてん〜東京オリムピック噺〜』への出演など、俳優としての活動もめざましい。

田口トモロヲ(写真右)
1957年生まれ。俳優、映画監督。数多くの映画やドラマなどに出演し、日本映画に欠かせない存在。その他の映画監督作に『色即ぜねれいしょん』、『ピース オブ ケイク』。近年の出演作にドラマ『忍びの家』(Netflix)、『サンクチュアリ-聖域-』(Netflix)、『名建築で昼食を』(テレビ大阪、BS テレビ東京)、舞台『千と千尋の神隠し』など。4月からナレーターを務める『プロジェクトX』(NHK)が新シリーズとして再開する。

撮影/恩田亮一(講談社写真部)
取材・文/池守りぜね