—— 娘さんの成長にともなって、工藤さんのお気持ちやお仕事などにも変化はありましたか?

実はつい先日18年ぶりに、泊まりがけの出張にいきました。娘を妊娠してからは控えていたんですが、担任の先生が「今ならできる段階にあると思います」と、背中を押してくださたんです。

先生が、カレンダーに私の顔写真を日付ごとに貼って、不在の日、帰宅する日が一目で理解できるよう、「おかあさんカレンダー」を作ってくださいました。また学校では、私が家に一晩いないという日課の変更を先生と学び、少しでもスムーズに日常の変化に適応できるようにするための学習時間も設けてくださいました。

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こちらが「おかあさんカレンダー」。このカレンダーで使われている絵文字は「マカトンシンボル」といいます。「マカトン法」という英国で開発された言語・コミュニケーションの指導法で使われ、文字に添えることで、ことばの理解を促します。
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実際に出張に行った11月8日〜9日には、このようなお手紙を用意し、娘さんにもわかるようにしました。

そしていよいよ一泊の出張へ。金曜の朝に出発し、翌日の夜に帰宅しました。
実は道中にぎっくり腰になってしまい……、車いすで仕事先の挨拶に回るという、忘れがたい出張になりました。車いすが上手く使えず、トイレのドアに挟まれ、引っ張り出してもらったりするハプニングも(笑)。

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この出張では、RKB毎日放送報道局解説委員長の神戸金史さんを訪ねました。相模原殺傷事件をきっかけにご子息のことを書いた「障害を持つ息子へ~息子よ。そのままで、いい。~」(ブックマン社)の表紙の裏に「ともに手をたずさえて子らとともに進みましょう」とメッセージを書いていただきました。

娘は私がいなかった夜、寝る前に静かに涙をこぼしたそうですが、頑張って眠ったそうです。そんな娘の成長に安心したことや、仕事が忙しくなってきたことなどもあり、出張から戻った後も私の帰宅時間は遅くなりがちで、心の余裕もなくしていました。

そんな、出張から帰宅して4日後のこと。娘が10ヵ月ぶりにてんかん発作を起こしてしまったのです。

—— 家で発作を起こしてしまったのですか?

就寝のためベッドに向かう途中、うめき声をあげて、崩れ落ちました。

幼い頃の娘を思い出しました。

言いたいことが言えず、私からすると些細で、気づいてあげられないような日常の変化に娘は適応できず苦しみ、そのストレスが数日後の睡眠障害となって現れていたことを……。

無理をさせてしまったと反省し、娘の成長を過信しすぎたうかつさに落ち込みました。

苦しむ姿を見ることはとてもつらく、いたたまれなかったのですが、翌朝にはニコニコと笑顔で登校しました。さらに私が帰宅すると、「おかあさんこしなおった」とつぶやき、湿布が貼ってある私の腰にそっと触れてくれたのです。

そんな気遣いのできる娘の優しさに、救われました。

今回の反省を踏まえ、今後は私が突然いなくなって娘が困らないよう、でも、負荷もかけすぎないよう、きめ細やかな観察と配慮を心がけながら、私も娘も少しずつ歩んでいけたらと思います。
 

 

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第1回 障がい児・医療的ケア児の親と就労「障がい児を育てながら働く 綱渡りの毎日」

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構成・文/工藤さほ
編集/立原由華里
 


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