久々に訪れたリュクサンブールは、相変わらずたくさんの人で賑わっていた。公園には至る所にベンチや椅子が置かれていて、皆思い思いに時を過ごしている。

 

私はいつも木陰を歩くのを好むけれど、わざわざ椅子を移動させて陽射しをめいっぱい満喫している様はほほ笑ましい。これから秋が深まり、あっというまに暗い冬に入るパリだから、なおさら太陽が愛しいんだろう。フランスに来てから、日焼けを気にしている人を見たことがない。

ぐるりと公園を巡り、私も椅子に腰を下ろした。もちろん日陰を探して。

犬の散歩、ランニング。おしゃべりや読書。単にぼうっとしている人。肩を寄せあうカップル……周囲を見渡しながら、学業も恋愛も中途半端な現状をどうにかしなくては、と思う。気持ちばかり焦って集中できない、この悪循環を今夜こそ断ち切ろう。

――ギヨームに面倒くさい奴だと思われたっていい。お互いの気持ちを確かめるんだ。

そう決めたら少し気が楽になって、読みかけの資料にも自然と手が伸びた。

待ち合わせ10分前に映画館に向かうと、既にギヨームの姿があった。

「ごめん、待たせちゃった?」

「いま来たとこだよ。元気だった?」

会心の笑みを向けられ、頬がゆるんでしまう。

裏道のインディペンデント系ミニシアターにはもう列ができていて、私たちもそこに連なる。当たり前のように腰に腕を回され、舞い上がった。

「やっと会えて、嬉しい」

普段なら恥ずかしくて口に出せないような台詞も、素直に言えた。

ギヨームの漆黒にきらめく瞳は抗いがたい引力を発していた。どちらからともなく、じわじわと額を寄せあう。

が、視界の片隅に見知ったシルエットを感知し、私は咄嗟に身体ごと向きを変えた。ギヨームに背を向け、ミニシアターのポスターに見入るふりをする。