退院のその先、社会復帰までサポートしたい


ーー現在「作業療法士」と「障害者雇用担当」の両方をされているそうですね。作業療法士、障害者雇用担当としてのお仕事の内容についてお聞きしたいです。

田中:私が入職した2005年当時、作業療法士としての業務は、病気をして入院した患者さんが家に帰れるように院内でリハビリテーションを行うことでした。でも、私は退院したあと、患者さんが無事社会復帰できているかが心配でたまらなかったんです。病気や障害に限らず、人間のすべての作業を支援することが専門の作業療法士としては、生きたい人生をおくるために、病気や後遺障害が足かせにならないよう、もっと長くサポートを続けたいと思いました。

 

田中:入職1年目のときにある出会いがありました。くも膜下出血で入院した飲食店の店長さんです。くも膜下出血というのは結構強い記憶障害が出ることもあるんです。私が「リハビリです」って行くと、毎朝「ナンシーなんでこんなことやってんだよ」「俺はなんでここにいるの」って言うんです。自分が入院したことがわからないんですね。こういう重度の記憶障害はすぐには回復が難しいです。でも体の麻痺はなく、身の回りのことはできますし、ご本人は病気をしたこともわからないので、退院の希望が強く、1ヵ月程度で退院してしまいました。入院担当としての私の業務はそこまででしたが、何もできなかった自分が許せず、どんな社会的な解決手段があるのかを調べました。そして、こうした「高次脳機能障害※」に関して、当時は近隣の福祉施設でも通所訓練の受け入れ制度がないことがわかりました。そして、しばらくして見に行ったら、その方が勤めていた飲食店はなくなってしまっていました。

 

※高次脳機能障害:病気や事故などによる脳損傷から生じる認知障害全般をさす。記憶障害・注意障害・遂行機能障害・社会行動障害・失認・失語症など様々な症状により、日常生活および社会生活への適応に困難が生じることがある。2001年ころから厚生労働省が診断やリハビリテーション、生活支援の手法の確立に動き、現在、高次脳機能障害は精神保健福祉手帳の対象であり、訓練など福祉サービスが利用できる。(失語症に関しては身体障害者手帳の対象。)