お金は幸せを運んではこないが安心安全を運んでくる

 

「お金で幸せは買えない」とはよく言われますが、ボークさんは「でもお金にできることはたしかにある」と言います。

「お金が確実に運んできてくれるもの、それは安心と安全です。お金があれば家賃を払えるし、子供の教育費が払えるし、病気になっても治療費が払える。とくにアメリカは日本のように国民皆保険ではないので、歯の神経を抜くのにも何十万円もかかります。しかもその場で払わなければ治療してもらえないんですね。

お金には物理的な安心安全を運んでくる力があります。もちろん、それだけ。“お金=幸せ”ではありません。だけど幸せって、安心安全がベースにないと作り上げていくことが非常に難しいと思うんです」

とくに日本女性の場合、“自分の幸せ”を後回しにしがちなため、“自分で稼ぐ”ということにもあまり執着しないところがある、とボークさんは感じているそう。

「私ね、アメリカに初めて来たとき『私はだまされていた!』と思ったんです。アメリカ女性は、自分の幸せ、自分の好きなことを追求しているじゃないか!と。

今はそれほど露骨ではないですが、日本女性は大なり小なり『女の子だから』という圧力のもとに育てられていますよね。その『女の子だから』には、いい母、妻、嫁、娘といった意味も含まれている。そうなるとその意味はますます広がって、男性より稼ぐ女の子はかわいくない、意見を言う女の子はかわいくない……となっていく。

その結果女性たちは、どんどん自分の能力を抑え込むようになってしまうんですね。私もそういう、“女性ならこうあるべき”にがんじがらめになっていました。ところがアメリカには、そういった“べき”が全くと言っていいほどなかったんです」

ちょうどボークさんがアメリカに渡った頃は、今の日本と状況が似ていて、女性たちが「私たちもキャリアを構築しなきゃ」と目覚め始めていた時期だったそう。
政府も様々な政策で、女性たちの活躍を応援していました。そんなアメリカ女性たちを見てボークさんは、「なぜこの人たちはおうちにいなくていいと思えるんだろう!?」とものすごく混乱したと言います。

「それでも2年間専業主婦を経験したおかげで、自分は一体どうしたいのか?と自分と向き合う時間を持つことができました。

その結果分かったことは、私のモヤモヤの正体は、やりたいことをやっている女性に対するジェラシーなんだ、ということでした。『私は“女性はうちにいるものだ”と思ってきたのに、なぜアナタたちはそんなふうに自由に生きられるの?』という。そのジェラシーを認めたとき、『ああ、私も同じように生きたいんだな』と気づけたんです。それでやってみようと思った。
その最初の一歩が、前回お話したボランティアのはたきかけだったというわけです」

 


“他人軸”から“自分軸”の時代へ


人生100年時代と言われるようになった昨今。子育てが終わった後には、長い“自分の人生”が待っています。
でも母として、妻として走ってきた女性たちは、「どうしていいか分からない」と途方に暮れることも少なくありません。ボークさんは新著でも、「今、女性たちは大きく価値観を変えるべき時にきている」とメッセージを送っています。

「これまでの私たちは“他人軸”で生きる術を身に着けてきました。女性としてこうあるべき、社会においてこう振る舞うべき……と。
それは、トラックに人がいっぱい乗っているのを見て、『あそこならみんないるから安心に違いない』と自分も乗っかるようなもの。そして行き先も分からないまま連れて行かれる。それが正しい生き方だと言われてきたと思うんです。

でも人生100年時代になって、子供が巣立った後の人生は長いし、かつ女性活躍の時代になっていろいろなチャンスも増えてきた。さあどうしよう?となったとき、今度は誰も正解を教えてくれません。
というのも子育て後の人生は、環境もお金の状況も、皆それぞれに違うからです。子供が1人の人と3人の人でも違うし、自営業と夫が定年退職した人でも違う。千差万別なので、皆にとっての正解はないわけです。だからこれからは、誰かのためではない“自分軸”で考えないといけないのです」

しかも今は、コロナウイルスによって社会は激変しています。誰も正解を知らないからこそ、自分で判断し、自分でどう生きるか決める必要性がさらに増しています。

「このコロナ禍が起こって、皆さん初めて『自分はどうするか?』ということを考えたと思うんです。どのように働くかということも、子供の学校をどうするかといったことも。

たとえば子供が喘息持ちなら、対面式の授業ではなく他の方法を選択する必要もあるでしょうし、働き方の選択もそれぞれ。そんなふうに多くの人が、初めて“自分軸で生きる”ということを意識したのではないでしょうか。ある意味、このコロナ禍は自分軸の人生を考える最高のタイミングだと言えるでしょう。

ただどうか皆さん、慌てないでください。本当に真逆といって言いぐらい世の中は変わってきているので、迷うのが当たり前です。『時間ができたのにその時間を上手く使えていない自分はダメだな』ではなくて、まずは迷っている自分を受け入れ、それから『自分がやりたいことは何だろう?』と探していく。
自分と一緒に旅に出るぐらいの感覚で、じっくりと、地に足をつけて“自分にとっての正解”を考えてほしいと思います」

 

<書籍紹介>
『子育て後に「何もない私」にならない30のルール』

ボーク重子著 文藝春秋 ¥1400

全米最優秀女子高生の娘を育てた母親として知られるボーク重子さん。専業主婦時代に「子育て後の自分には何が残るんだろう?」と不安を感じ、経済的自立を目指すべく動き始めました。その経験とライフコーチとしての知識をもとに、自分で自分の幸せを作る30の方法をまとめた一冊を上梓。人生100年時代、子育て後の長い人生を後悔しながら生きないためにも、是非読んでもらいたい一冊です!

取材・文/山本奈緒子
構成/片岡千晶(編集部)




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