そしてある日、大事件が勃発。“大黒柱妻”として「稼がねば!」とひとり息巻くふさ子は、仕事中心になるあまり、子どものピアノ教室のことも、保護者会のことも頭から完全に抜け落ちてしまい、夫から激しく叱責されてしまいます。

 

いつも仕事のことばかり考えて子どものことはうわの空。言ったことを何ひとつやってくれない。相手がやってくれるのが当たり前――。そんな状態に陥っていたふさ子は、以前トシハルに対してふさ子が不満を爆発させていた時の状況と、まったく同じことをしていたのでした。ついにはトシハルに、「今のふささんは“昭和の親父”そのものだよ」と呆れられてしまいます。

 

「おねがいしたことだけでいいからやってよ」とため息混じりに夫に言われてしまった、“昭和のお父さん”と化した元ワンオペ妻。役割交替をしたことでお互いの立場への理解が深まりはしたものの、ボタンの掛け違いはなくなりません。

 

しかし、そんなふさ子とトシハルは、時に激しくぶつかり合いながら、自分自身の中に根付いている「女だから」「男だから」という価値観を問いただすことで、家族との絆を深めていきます。

 

家事育児を担当してくれるようになった夫を、男社会の競争から脱落させたんじゃないか、だとしたら、お金を稼いでラクさせてあげることが恩返しなんじゃないか、そう考えた妻。

 

家計を一身に背負い、家庭をかえりみず出世を目指すという“男の山”を登ることが当たり前だと考えていた自分を、家族がいる場所に引き戻してくれた妻に感謝する夫。

失敗や誤解を何度も重ねながら、苦労を少しずつ分かち合うことで「自分たちらしい形」を見つけていくふたりの姿と、色々な価値観を持つ人々との交流を描いたエピソードには、共働き夫婦の悩みをちょっとだけ軽くしてくれるヒントがたくさん詰まっています。

田房永子(たぶさ・えいこ)さん:1978年東京都生まれ。2001年第3回アックスマンガ新人賞佳作受賞(青林工藝舎)。母からの過干渉に悩み、その確執と葛藤を描いたコミックエッセイ『母がしんどい』(KADOKAWA/中経出版)を2012年に刊行、ベストセラーとなる。ほかの主な著書に『ママだって、人間』(河出書房新社)、『キレる私をやめたい』(竹書房)、『お母さんみたいな母親にはなりたくないのに』(河出書房新社)、『しんどい母から逃げる! ! 』(小学館)、『男社会がしんどい』(竹書房)などがある。漫画以外にも『「男の子の育て方」を真剣に考えてたら夫とのセックスが週3回になりました』(大和書房)などのエッセイ作品も手がける。これまでは主人公を「エイコ」とし自らの体験を描いてきたが、今回初めて架空の人物を主人公とするフィクション作品に挑戦した。

 

『大黒柱妻の日常 共働きワンオペ妻が、夫と役割交替してみたら?』
著者:田房永子 エムディエヌコーポレーション 1320円(税込)

出産後から7年間ワンオペ育児をしてきた主人公のふさ子。家事育児に参加しない夫・トシハルに不満を爆発させるうち、自分が家計の7割以上を担う“大黒柱妻”になることを思いつきます。しかし、仕事にまい進するふさ子を待っていたのは、まさかの“昭和のお父さん”となった自分でした。妻の目線、夫の目線、それぞれの立場から描かれる心情に思わず膝を打つ、笑いあり涙ありの共働きエンターテインメント。


構成/金澤英恵

 

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