不妊の原因は、年下の夫だった

 

リュカとは日本で出会い、結婚した。

 

彼が「不妊検査を受ける」と言い出したのは、私がパリに移住して一年経った頃。おそらくアラフォーの妻を気遣い、自分から動いてみせたのだろう。何事も大雑把で気の利かない私とは正反対の性格なのだ。

その結果、造精機能障害のひとつ「精索静脈瘤」と診断されて激しく落ち込み、「僕のせいだったなんて! ごめん!!」と、ほとんど泣き出したのだった。

「不妊の原因の半分は男性にもあるってんだから、別に驚くこたないよ」

私は素っ気なくなだめたが、三歳下のリュカが内心「不妊は自分の問題ではなくて、蘭の問題だ」と考えていたらしいことに憤慨していた。

後から知ったが、精索静脈瘤は男性不妊の原因の三〜四割を占め、なんと健康な成人男性でも約15%にみられるという。リュカの場合は精巣の近くに瘤ができ、そのせいで精巣の温度が上昇して精子の動きが悪くなっていたらしい。熱い温泉に浸かりすぎてぐったりしている、にょろにょろした白い生物が脳裏に浮かんだ。

「僕はタバコも吸わなければアルコールだって嗜む程度だし、食事にも気を付けてランニングだってしてるのに……おかしい、不公平だ……」

リュカは最後には愚痴りながら日帰りの外科手術を受け、執刀医から「新しい精子ができる二〜三ヵ月後から改善がみられるはずです」と告知されていた。
そしてまさに手術から三ヵ月後、生理が遅れていることに気付いたのだった。

 

私にとって子供とは手のかかる謎の生物であり、嫌いではないものの、親族や友達の子供たちと年に数回交わればお腹いっぱい。子供好きで面倒見の良いリュカから「子供がいたらもっと楽しくなる」と熱心に口説かれ、やっと子作りに前向きになった矢先だった。

妊娠検査薬で陽性反応が出た後、まずは近所の婦人科にかかった。

エコーもとり、初めて胎児の心音を聞いた時にはその速さに驚き、いま自分はふたつの心臓を宿しているのかと不思議な気持ちになったものだ。

妊娠が確定してから産院探しを始めたが、私のフランス語は小学生レベル、英語も同様。日本語の通じる私立病院なら安心ではあるものの、私たちの稼ぎではとても厳しい。その点、フランスは国立であれば基本無料……結局、利便性も考えて、車で十五分ほどの国立総合病院を選んだ。

産院で「あなたの担当です」と自己紹介してくれた女性担当医は、片言のフランス語しか話せない私に対しても優しくてホッとする。手慣れた対応に、きっと私のような充分に言葉を操れない移民も多いのだろうとも想像できた。

「妊娠三ヵ月目、出産予定日は十月十五日ですね」

私とリュカは頷きながら、ちらりと顔を見合わせる。