不器用な左手と少しだけ動く右手で、なんとか半人前!?


車イスへの移乗が許され、晴れてひとりで売店に行けるようになってからは、食べ物コーナーに置いてある品々が私を誘惑します。とくに「のりたま」や「ゆかり」などのふりかけコーナーで、何度足(車イス)を止めたことか……!

でも、ここでこれらを購入して食べた結果、血圧が上がったり、何らかの異変が起きたりしたら、また自由を失ってしまうかもしれません。そう自戒しては、ちょっとした甘いもの(グミやノンシュガーの飴など)をつましく購入し、ごはんの合間にいただく私。

リハビリ中にそんな話を担当の作業療法士さんにしたところ、私と同室のあるおばさまと、買い物のリハビリを兼ねて売店に行ったときの話をしてくれました。

「お金を払いにレジに行ったところ、どうしてもレジ横の肉まんが買いたい、とおっしゃるんですよ。そこで『でも、食べるのは禁止されているはずですよ』と言ったところ、『食べません。ただ買うだけだから。それならいいでしょう?』って何度も何度も言われて、困ってしまいました」。

いやいやいや、そんな子どもみたいな言い分、通るわけはないでしょう! 思わず、笑ってしまいました。

入院患者はみんな、それくらい「病院食ではない、普通の食べもの」に飢えているということでしょう。

9月に導入された練習用の箸。これを使って、左手でなんとか食べられるように!

食事中、右側にだらんと落ちがちな右手を机の上に乗せておくように指導されるうちに、なんとかお皿を押さえることに成功。納豆を混ぜるのは、片手で押さえないと無理なのです……!

食べることも、大切なリハビリのひとつ。不器用な左手と動かない右手で、毎日3回、なんとか食事をしないとなりません。

 

当初はぎこちなかったものの、食い意地が勝利を収めたのか、徐々に右手でなんとか器を押さえ、左手で食べることができるようになっていきました。

利き手でない左手が麻痺してしまった仲間の患者さんの多くは、右手で何でもできるためか、左手をほぼ使わないで生活しているようす。「そうなると、左手の回復が遅くなってしまうケースがあるんですよね」と、ある作業療法士さんが教えてくれました。脳卒中などの後遺症で動きにくくなったところは、積極的に動かすことが、回復への近道だそうです。

ときにくじけそうになりながらも、左手で箸の練習をし、左手で毎日日記を書く私。こうして、右手から左手への「利き手交換」に向けての道を、着実に進んでいきました。

でも、右手ももちろん、再び動かしたい! そんな私に、「心理」のリハビリの担当者から、衝撃的な事実が告げられました。

「左手ばかりを使って、その機能が向上すると、その分右手の回復が阻害されると言われているんです」。

左手が使えないと困るし、「仕事」「料理」「運転」の復活は、なかなか厳しくなります。ならば、どちらの手を頑張って使うべきなのか……。

私のリハビリ道は、まだまだ続くのでした。
 


>>次回は、入院患者や病院のスタッフたちとの関わりについてレポートします。
 

※記事内容を一部修正しました。


文/萩原はるな
写真/萩原はるな、Shutterstock
構成/宮島麻衣

 

 

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