お腹の赤ちゃんの顔が、まさかの...


聞けば「エイリアン4」の監督は、あの大人気フランス映画「アメリ」の監督、ジャン=ピエール・ジュネという。そういえば両作品ともフランスの個性派俳優ドミニク・ピノンが出演している。

「アメリ」はオシャレかわいい感じが鼻についてどうも好きではなかったが、久々に観直したくなった。そしてこれからアメリ好き女子に出会ったら、もれなく「エイリアン4」を薦めようと決める。

ベッドに横になり目を閉じても、赤ちゃんエイリアンの切ない表情がまぶたの裏に蘇り、じんわり涙が溢れた。この感情が母性と関係しているのかは大いに謎だったが、めそめそしながらかけがえのない胎動を感じていた。

パソコンに向かって仕事をしていると、突然どんッとお腹を突き破る勢いで体内からプッシュがあり、前につんのめった。仰天して立ち上がり洋服をめくりあげると、丸いお腹がぼこぼこと波打っている。

「大変! 赤ちゃんが外に出ようと大暴れしてる!! 」

私のSOSにリュカが仕事部屋から駆けつけ、二人で「落ち着け」とお腹の赤ん坊に説得を試みるが、パンチやキックの嵐は止まない。ついにはお腹の内側から皮膚が引き伸ばされて薄くなり、中が透けて見えるようになってきた。

「赤ちゃんの顔が見えるよ!」

半透明になったお腹を覗き込むと、丸まっていた赤ん坊がくるんとこちらを見上げた。その顔付きに息を呑む。尖った耳、吊り上がった目、潰れた鼻、そして裂けんばかりの巨大な口には鋭い牙が光っている。

「ガーゴイル……」

 

あまりのショックで茫然自失となった私をリュカが励ます。

「大丈夫! 怖い顔でも優しい子に違いないよ。フランスらしくていいじゃないか、将来は個性派俳優としてやっていける」

飛び出そうとする赤ん坊をお腹ごと必死に押さえつけながら、どこまでポジティブで愛情深い父親かと感極まった。

 
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<新刊紹介>
『燃える息』

パリュスあや子 ¥1705(税込)

彼は私を、彼女は僕を、止められないーー

傾き続ける世界で、必死に立っている。
なにかに依存するのは、生きている証だ。
――中江有里(女優・作家)

依存しているのか、依存させられているのか。
彼、彼女らは、明日の私たちかもしれない。
――三宅香帆(書評家)

現代人の約七割が、依存症!? 
盗り続けてしまう人、刺激臭が癖になる人、運動せずにはいられない人、鏡をよく見る人、緊張すると掻いてしまう人、スマホを手放せない人ーー抜けられない、やめられない。
人間の衝動を描いた新感覚の六篇。小説現代長編新人賞受賞後第一作!


撮影・文/パリュスあや子
構成/山本理沙

 

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