ここは、普通のミュージアムのように好きな時間にそれぞれ見るスタイルではなく、10人ほどのグループになってガイドさんとともに1時間ほどかけて回ります。ツアーもいくつかのタイプがあって、あらかじめオンラインで調べてチケットを購入しておきました。私は「アイルランドのよそ者(Irish outsiders)」というアイルランドからの移民で、実際にそこに住んでいたムーア夫妻の生活をみるというコースを選びました。
当時、この界隈はドイツからの移民が多く、この長屋も彼ら家族以外は皆ドイツ人。ほかのアイルランドコミュニティの地区はもっと貧しく犯罪も多かったので、少しでも良い環境をとこちらに移り住んできたそうです。飛び交うのはドイツ語だけ。彼らの話す英語も通じず、ドイツ人たちからは差別を受け、電気もガスも、水道もない、日の当たらない小さな部屋でつましく暮らしていました。トイレも共同で、汲み取り式3つくらいを20家族で使う環境の悪さ。ムーアさん夫妻の間には子供が8人生まれたけれど、4人しか大人まで生きられなかったそうです。
ツアーのガイドさんが「これを見て」と見せてくれたものが非常に印象に残っています。それは、壁紙がはがれた後です。何重くらいになっていたのかなあ。そんな環境の中でも明るい未来を夢見て、少しでも楽しい家にしようと可愛らしい柄の壁紙を替え続けていたのが伺えました。
前日、マンハッタンのアッパーイーストサイドの女性がブランド服に身を包んで闊歩する姿や、お城の一室かと思う豪華さのモルガンスタンレーの創始者、JPモルガンの自宅など全く想像も出来ないお金持ちの様子を見ました。この長屋との差に愕然としますが、でも、19世紀末から20世紀初頭にやってきた様々な国の移民の子孫が今のアメリカの人口の9割を占めているんだそうです。当時貧しくても頑張って生き抜いてきた移民たちが今のアメリカの礎を作ったんだなととても感慨深い気持ちになった博物館でした。
ひとつだけ、注意事項。こちらのガイドは英語です。安部さんに一緒に行ってもらってよかったあ。私たちのグループは、ほぼ他の州から来たアメリカ人たちでした。見学が始まる前に「さあ、皆さん自己紹介して!」とガイドさんが促しました。えっ!?と怯えた私の目をみたガイドさん、「じゃあ、こちらの方から」と逆のサイドから初めてくれました(笑)。
ムーア夫妻や、そして時代を超えて安部さんのように、夢を抱いてやってきた人たちが困難を乗り越えて生き抜いた、そのエネルギーが積み重なって形作られたアメリカは、私のように生まれてからずっと同じ場所に生きている人たちからなる国家とはやはり良くも悪くも違う文化となるだろうなと思いました。
来週こそは、ブルックリンについてお話します!
では、また来週!
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