社員の親は「お客様」?


「本日はドリンクサービスのチェックを行います。お客様役、CA役に分かれて取り組みましょう」

久住の言葉でカリカリモードを脱することができた結子は、この数週間、どうにか教官のミッションを果たしてきた。担当する新人24人の顔と名前、性格も一致した。今ではキャラクターに応じてかける言葉も変えている。

「新田さん、今の対応は良くないわ、まずはお詫びして濡れたお召し物をお預かりして。いいですか、皆さんはドリンクや機内食を『配る』係ではありません。そこにサービスという付加価値をつけるのがCA。気持ちがあれば決して片手でドリンクをお渡ししたりしないはず。気持ちはサービスや身だしなみに必ずあらわれます。

私はファーストクラスでパーサーとして乗務するとき、必ず一番高い真新しいストッキングを下ろすことに決めています。もちろん誰にも気づかれないけれど、自分に気合を入れたくて。普段もとても気をつかっていますが、ファーストクラスに乗務するときはプレッシャーをかけて真摯な気持ちで当日入ります」

新入社員の「親」からクレームが...?42歳CA、恐怖の新人研修【桜子さんにはなれなくて】_img0
 

新人たちに一切反応はない。結子は内心ドリフのごとくズッコケた。もちろん悔しいからおくびにも出さないが。幾分なれてきたものの、結子が新人ならば「わあ、ファーストクラスってやっぱり特別なんだな、私もいつか乗務できるかな?」という表情になるだろう。それともそういうのが照れくさいのだろうか。むしろ肝が据わってるのかもしれない。

「練習のあと、ひとりずつサービスをします。私は後方でチェックし、一人ひとりにフィードバックを送ります。パスしない場合は、明日、再チェックです」

ここは大切な訓練だ。形だけでなく、訓練生に社員として、CAとしてのマインドを身に着けてもらわねばならない。内心後輩たちにエールを送りながら、結子は気合を入れてペンを走らせた。

 

その夜。風呂上がり、一人晩酌をしていると会社から支給された教官用のタブレットが光った。手に取りタップすると、そこには昼間ドリンクサービスで注意をした訓練生、吉田愛理からのメッセージがきている。初日に両親との約束のために授業の終了予定を聞いた子だ。
 

深谷教官
お疲れ様です。
明日の訓練後に、お時間を少しだけいただくことは可能でしょうか。
母が、訓練につきましてご相談したいことがあるとのことです。
両親はマイレージの上級会員で、長年我が社のファンです。昔からCAさんを捕まえては意見をするようなところがあり、今回はこのように厳しい訓練に驚き、イメージにそぐわないと思ったようで……。ちなみに母は先生と同い年です。
ご迷惑をおかけいたしますが、どうぞよろしくお願いいたします。
吉田


「え!? 嘘でしょ、どの立場からクレーム? まさかお客様!?」

結子は吉田愛理の母が同い年であることにも地味にショックを受けながら、ソファに倒れこんだ。
 

次週予告:
まさかの親クレームに、ピンチの結子。そして久住との関係にも変化が……!?
構成/山本理沙


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