48

セックスの悩みを助長する「誤解だらけの性知識」

7

女性の「濡れにくい」という悩みは“膣から出る汗”が関係


濡れにくい、というのも女性特有の悩みのひとつです。
「セックスで興奮すると、膣壁の毛細血管に血液が集まってくるのですが、その量が限界を越えると、血液中の成分が外に流れ出てきます。いわば汗のようなものです。この汗が“濡れる、濡れない”を左右しています。
そのため、膣の毛細血管が硬くなる、つまり動脈硬化が起きてくると濡れにくくなるのです。もし性行為中に女性が濡れにくい、ということでしたら、動脈硬化の初期症状の可能性もあるので、要注意です。
また、痛みを感じることがあればリューブゼリーなどで潤いを補うなど、自分のデリケートゾーンにもっと関心を持ってケアをしてください」(北村先生)。


締まるのがいい、のは大間違い

 

また、よく誤解されていることのひとつが、膣が締まったほうが性交時に男性側が快感を得られやすいということ。
「上のイラストをみてください。性的興奮が高まってくると、実は女性の膣は締まるどころか、テント状・風船状に形が変化するのです。
さらに、膣の入口には“オーガズムプラットフォーム”が形成されます。膣が長く伸び幅も広がるので、男性のペニスはゆるさを感じます。実はこれこそが二人の関係がフィットしているという状態。
膣で締め付けたり、締まっているほうがいいというのは間違った認識で、本当は逆です。産後の女性の膣がゆるくなるのも、お産の影響がないわけではありませんが、二人の関係がフィットした結果とも言えます」(北村先生)。

 


マスターベーションがセックスの悩みを解決する


「もしあなたが本当に気持ちのいいセックスを経験したいなら、マスターベーションをおすすめします。自分の体は自分が一番よく知っていますので、女性も自分の身体の頭の先から足の先まで触れて、快感ポイントはどこなのか探ってみましょう。
パートナーがいるなら、相手にその場所を教えてあげてください。セックスは学習の成果と前述しました。いいセックスを実現するには、教え合うことが大事なのです。

人間は60兆個の細胞の組み合わせ。その掛け合わせはワンパターンではありません。二人の関係性の中で、計り知れないものを探ることを楽しむのがセックスの意義。誤解だらけの性知識が、結果的に二人の関係を狭め、遠ざけていると思うのです」(北村先生)。

女性側のセックスについて取り上げると、「そんなにしたいの?」「その年で、エロボケ?」といったコメントが飛び交います。
ですが、性別年齢にかかわらず、好きな人に近づきたい、触れたいという衝動は自然なこと。「家庭も仕事も向上心を持って取り組む女性達が、なぜかセックスにだけは消極的だとしたらもったいないこと」と北村先生は言います。

「パートナーや大切な人との、スキンシップはとっても大事。脳内では幸せホルモンのオキシトシンやセロトニンが活性化されます。そして自己肯定感が高まれば、ハッピー気分で免疫力もアップ。心の動きに体が自然に反応しますから、まずは頭で考えすぎず、人と比べないこと。
自分と相手が気持ちいいかを最優先に、触れ合いのあるコミュニケーションを今一度、意識してみてはいかがでしょうか?」(北村先生)。

北村邦夫

群馬県渋川市に生まれ。自治医科大学を一期生として卒業後、群馬県庁に在籍するかたわら、群馬大学医学部産科婦人科教室で臨床を学ぶ。1988 年(昭和 63 年)から日本家族計画協会クリニック所長。現在一般社団法人日本家族計画協会会長/理事長/家族計画研究センター所長、日本思春期学会名誉会員、日本母性衛生学会常務理事など。著書には「ピル」(集英社新書)、「セックス嫌いな若者たち」(メディアファクトリー新書)。「ティーンズ・ボディーブック(新装改訂版)」(中央公論新社)、「入門百科プラス 女の子、はじめます。」(小学館)、「みんなこうなるの? おとなになるためのベストアンサー 71 の Q&A」(講談社)など多数。現在、毎日新聞で「Dr.北村が語る現代思春期」、朝日新聞アピタルで「あなたを守る性のはなし」連載中

取材・文/熊本美加
構成/片岡千晶(編集部)

前回記事「「日本人が性交したくない理由」2020年夫婦のセックレスは5割以上」はこちら>>


「オトナのための性教育」記事一覧
▼右にスワイプしてください▼

第1回「宋美玄先生と考える「私たち、もっとセックスするべきですか?」」>>
第2回「更年期以降をすこやかに送るために、「自前」にこだわるよりも大切なこと」>>
第3回「マスターベーションを教えられる親子関係をめざして」>>
第4回「デリケートゾーンの新習慣! おすすめケアアイテムをピックアップ」>>
第5回「セックスの価値観をリセット①「挿入主義から解放されよう」」>>
第6回「セックスの価値観をリセット②「セックスレスの原因と対策」」>>
第7回「セックスの価値観をリセット③「自分の性欲と向き合うことの意義は?」」>>
第8回「10代の性の現状と学校の性教育〜日本の性教育のいまと未来〜」>>
第9回「家庭でできる性教育ってどんなこと? 〜日本の性教育のいまと未来〜」>>
第10回「性教育は性の幸福感も語れる多様性を〜日本の性教育のいまと未来〜」>>
第11回「50歳で見つけた自撮りヌードの道 〜熟女がありのままの女性性を肯定する方法〜」>>
第12回「性欲との向き合い方に正解はない 〜熟女がありのままの女性性を肯定する方法〜」>>
第13回「夫婦のセックスレス問題、妻側のリアルな本音【30〜40代読者座談会】」>>
第14回「「コンドームは最低の避妊具⁉︎」驚きの避妊最新事情」>>
第15回「緊急避妊薬の市販化どうなる?中絶件数は年間約16万件で求める悲痛な声」>>
第16回「「熟年世代の性の実態」を東大名誉教授がレポート」>>
第17回「産婦人科医とAV男優が考えた「学校ではできない本当に必要な性教育」とは?」>>
第18回「【正しいマスターベーションのやり方】を子供に教えるには?泌尿器科医に聞いてみた」>>
第19回「1年続けた女性ホルモン補充療法、いつまで続けるべき?泌尿器科医に聞いてみた」>>
第20回「久々の性行為で痛みと出血が。もう性行為はできないの?」>>
第21回「夫婦の性交時間は10分以下!? データでみる40代、50代の性のリアル4つの事情」>>
第22回「恋も性も人生もこじらせているあなたへ、読むべき“恋愛指南書”」>>
第23回「男性風俗とは違う「癒しのサービス」女性向け風俗の現状とニーズ」>>
第24回「【その時、緊急避妊薬が必要だった理由】服用当事者たちの声」>>
第25回「 日本初!セクシュアルアイテムブランドが百貨店にオープンした理由と反響 」>>
第26回「むなしい性交が5割…データでみる40、50代の性のリアル【夫婦間レス4つの事情】」>>
第27回「“常に女性が受け身”がセックスレスを生む。まずは、自分の身体を理解することから」>>
第28回「SNSで話題! 学校の保健の先生が「コンドームソムリエ」になったワケ」>>
第29回「セックスレス解消に効果大。夫婦にぴったりの3つのマッサージ」>>
第30回「40代でデリケートゾーン脱毛に挑戦!【ブラジリアンワックス体験リポート】」>>
第31回「40代でデリケートゾーン脱毛に挑戦!【レーザー脱毛の不安、疑問点を解消します】」>>
第32回「男性がセックスを断る理由「母親に思えて無理」の 裏の本音」>>
第33回「【データでみる不倫の実態】善悪を裁くことはできる?婚外性交をする理由」>>
第34回「男性更年期、女性も知っておきたい3つの症状と対処法」>>
第35回「オーガズムが女性の心と身体の健康に大切な理由【産婦人科医が解説】」>>
第36回「性教育は「セックスを学ぶこと」ではない【大人も学びたい性教育&ジェンダー論】」>>
第37回「​家庭でできる性教育「隠れたカリキュラム」とは?」>>
第38回「​【デリケートゾーンのケアの常識】お手入れは女性の新生活習慣に」>>
第39回「​【デリケートゾーンのケアの常識】これだけは実践したい4つの基本ポイント」>>
第40回「【デリケートゾーンのケアの常識】40代からは膣ケアがトラブル解消に」>>
第41回「【デリケートゾーンのケアの常識】人に言えない、女性器コンプレックスの治療法」>>
第42回「​『夫のHがイヤだった。』夫婦でこの本を読めますか?【試し読み付き書籍紹介】」>>
第43回「『夫のHがイヤだった。』セックスは「夫婦の条件」なのか?【試し読み付き書籍紹介】」>>
第44回「『夫のHがイヤだった。』豊かなセックスをかなえるものとは?【試し読み付き書籍紹介】」>>
第45回「わが家の性教育は手遅れ?! 焦った時の頼れる情報サイトがオープン」>>
第46回「日本人のセックスの平均「性交時間は約30分」医師が分析する深刻な男女の溝」>>
第47回「2020年夫婦のセックスレスは5割以上。日本人が性交したくない理由とは?」>>
第48回「​セックスの悩みを助長する「誤解だらけの性知識」」>>

  • 1
  • 2