更年期以降をすこやかに送るために、「自前」にこだわるよりも大切なこと
産婦人科医、性科学者として、女性が豊かな性を生きるための情報を発信し続ける宋美玄先生に「ミモレ世代の性との向き合い方」を伺うインタビュー。全3回連載の第2回目は、「デリケートゾーン」のお手入れ方法と、ミモレ世代にとって最も身近な問題である「更年期」の乗り越え方についてお届けします。
専用ソープの使用と脱毛が
おすすめの2大ケア!
ーー日本でも、デリケートゾーンケアの必要性が広まりつつあると感じられる今日この頃。そのぶん、ケア方法に迷っていらっしゃる方も多いかもしれません。おすすめのお手入れ方法を教えていただけますか?
宋:デリケートゾーンのケアでまず実践していただきたいのは、専用のソープで洗うこと。分泌物も多く垢が溜まりやすい場所なので、お湯ですすぐだけでは不充分です。ただ、気をつけたいのはそのpH値で、デリケートゾーンはpH 4.0〜4.5と弱酸性なので、一般的なアルカリ性のボディソープでは刺激が強過ぎます。pH値を合わせた穏やかな洗浄力のソープで、やさしく撫で洗いしてあげましょう。
もうひとつ大事なのは、脱毛。現代生活ではアンダーヘアは不必要ですし、むしろあるだけ不衛生。めっちゃ汚いですよ! すべてなくすのが理想的ですが、温泉などで恥ずかしければVゾーンだけ残しても。I・Oはノーヘアがいいですね。また、皮膚が乾燥しやすくなる更年期や閉経後は、ミルクやクリームで保湿をして。この時も毛がない方が断然ラクですし、これまであまり自分のデリケートゾーンを見たことがないという場合にも、すっきり整えてみると観察しやすくなると思います。
子宮は単なる臓器。
いき過ぎた神秘性に踊らされないで
ーー日本人女性は、あまり自分のデリケートゾーンを見る習慣がないですよね。それは、やはり問題なのでしょうか?
宋:大人はもちろん、ある程度の年齢になったら、自分のデリケートゾーンを観察することは大切です。見られない、触れられないままでは、平常時の様子がわからず病気にも気づけません。いつまでもデリケートゾーンをタブー視していると、タンポンさえ上手く入れられないなど、使える生理用品だって限られてしまうでしょう。
また、日本の女性は、膣や子宮を必要以上に神秘的に捉えようとする傾向がありますが、それもまた「直視できていない」ことが原因かもしれません。しいて言うなら、妊娠や陣痛の仕組みには多少神秘的な部分もありますが、膣や子宮は単なる臓器。得体が知れないからこそ神格化してしまうのでしょうが、時に不安を煽られるかたちで物販に繋げられている様子を見ると、もう少し淡々と接した方がよいのではないかと思ってしまいます。
更年期の心配は
40代半ばを過ぎてからで充分
ーー「得体が知れないからこそ不安感が募る」という意味では、いままさにミモレ世代が直面している「更年期」とも共通している気がします。すべての女性が通る道にもかかわらず、イメージばかりが先行して気分が滅入る更年期。まずは、正しく理解するために必要な知識を教えてください。
宋:女性の身体は、一生を通じて女性ホルモンの変動に影響を受け続けます。女性ホルモン分泌のピークは20代半ば〜後半頃で、その後、40代半ばくらいから急激に減少することに。やがて、卵巣機能が停止して月経もストップ。月経のない状態が1年以上続くと「閉経」と診断されます。
更年期とは、閉経の前後約10年間を指す言葉。日本人女性の閉経の平均年齢は50〜51歳くらいなので、基本的には40代半ば以降になります。この時期は、女性ホルモンが欠乏することで心身が大きく変化し、さまざまな症状が起こりやすいのです。近年では「プレ更年期」や「プチ更年期」といった造語が生み出されてしまったせいか、30代後半くらいで更年期の影響を気にしている人も。でも、その年齢で更年期の症状が出ることはまずありませんから、余計な恐怖心に惑わされないようにしましょう。
ーー更年期には、具体的にはどのような症状が起こるのでしょうか?
宋:典型的なのは「ホットフラッシュ」と呼ばれるのぼせやほてりで、冷房のなかにいるのに滝汗をかいてしまうことも。その他にも、頭痛やめまい、関節痛、食欲不振や便秘や下痢、イライラや不安感、集中力の低下など、更年期には、ありとあらゆる症状が現れる可能性がある一方、この時期の症状をすべて更年期と決めつけてしまうと、他の病気を見逃しやすくなってしまいます。
ただでさえ40〜50代は、子どもの受験や巣立ち、仕事で重責を担い始めるなどストレスを抱えやすい時期。40代半ば以降に体調の変化を感じたら、まずは婦人科を受診して、症状が改善されればそれで安心ですし、治らないようなら、別の病気の可能性も疑って欲しいですね。
更年期の問題と対峙することは、
更年期だけを見つめることにあらず
ーー現在、更年期の症状の治療法には、どのようなものがあるのですか?
宋:いまのところファーストチョイスとなるのは、欠乏した女性ホルモンを補う「HRT(ホルモン補充療法)」です。乳がん経験者には投与できなかったり、血栓ができやすいというリスクがあったりするため、すべての女性に適用できるわけではありませんが、症状を改善してくれるだけでなく、老年期に起きやすくなる骨粗しょう症や動脈硬化、膣萎縮の予防にもいい影響を与えることがわかっています。
ただ日本では、ピル同様に、ホルモン剤は敬遠されがち。更年期の症状は女性ホルモンの減少が原因なので、他の方法で緩和しても本質的な治療にはなりません。にも関わらず、「食品や漢方で乗り切りたい」と言う患者さんは多いですね。漢方は、身体にやさしいイメージがあるかもしれませんが、副作用がないわけではありません。豆乳や大豆製品等の摂取も無駄ではありませんが、治療の効能が期待できるほどではないのです。
とりわけナチュラル志向の女性にありがちなのが、薬を避け、病院を介さずに健康になろうとすること。自分の治癒力を信じるのは構いませんが、卵巣には寿命があるのです。外部からでもホルモンを補充してよい結果が得られるならそれでヨシだと思うのですが、「自前」にこだわり続けることには、どれほどの意味があるのでしょうか?
それよりも、私たちがいま向き合うべき大切なことは、「人生100年時代を生きる現代女性にとっては、閉経後の時間がいちばん長い」という事実。女性ホルモンは、生殖に関わる器官だけでなく、骨や脳の働きや糖の代謝、精神の安定などあらゆる機能を司るため、その充実度はそのまま生活の質に繋がっていくのです。HRTは保険適用の治療法で、閉経後の継続も可能。もちろん、髪や肌といった美容面や膣の潤いにも効果的ですし、卵巣機能停止後の40年ほどを快適に生きていくために、もっと積極的に取り入れてみてもいいのではないでしょうか。
閉経を挟む約10年間の「更年期」は、新しいライフステージへの準備期間と言えるのかもしれません。ただその新たなステージを生き生きと輝かせるためには、心身のドラスティックな変化を上手くコントロールしていくことが肝心なのでしょう。私たちは、こうして一生をかけて、性にまつわるさまざまなことを自分なりに咀嚼し、子どもたちに伝えていく役割も担っています。次週、インタビューの最終回となる9月21日(金)には、待ったナシ!状態にある「日本の性教育」との向き合い方をお届けします。ご期待ください。
撮影/目黒智子
取材・文/村上治子
構成/片岡千晶(編集部)
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宋 美玄
産婦人科専門医、医学博士、性科学者。1976年兵庫県神戸市生まれ。2001年に大阪大学医学部を卒業し、大阪大学医学部付属病院、りんくう総合医療センターなどを経て、川崎医科大学講師に就任。2009年にロンドンのFetal Medicine Foundationへ留学し、胎児超音波の研鑽を積む。2015年に川崎医科大学医学研究科博士課程卒業。現在は2017年に開院した丸の内の森レディースクリニックの院長として周産期医療、女性医療に従事する傍ら、さまざまなメディアを通じて情報発信を行う。産婦人科医の視点から社会問題の解決、ヘルスリテラシーの向上をめざして活動中。プライベートでは1男1女の母の顔も。50万部突破のベストセラーとなった『女医が教える本当に気持ちのいいセックス』(ブックマン社)の他、『女のカラダ、悩みの9割は眉唾』(講談社プラスアルファ新書)、『産婦人科医ママの妊娠・出産パーフェクトBOOK-プレ妊娠編から産後編まで!』(メタモル出版)など著書多数。