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「熟年世代の性の実態」を東大名誉教授がレポート

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人生100年と言われる長寿社会の後半では、これまで想像できなかった長い人生が待っています。となると、性についても「何歳まで、セックスできるの?」「死ぬまで、セックスは必要なの?」と、漠然とした不安に駆られませんか? 
高齢者の性は人間にとって重大な関心事にもかかわらず、なぜかアンタッチャブルな話題でした。老後の自分、誰しもが当事者になる可能性があるのに、タブー視されていると思いませんか?
その実態に斬り込んだのが、東大名誉教授の石川隆俊先生です。がん研究を専門にしてきた医学者の探求心と好奇心で、高齢の男女に対し聞き取り調査を実施。そこから浮かび上がってきた高齢者の愛と性のありのままの姿について、お話を伺いました。


シニア世代の男性8割、女性7割以上が性を謳歌

 

石川先生の調査は、50代から90代のさまざまな生活スタイル持つ、男女各80名延べ160人を対象に、一対一の対話形式で行われました。

「1人、1~2時間をかけ、生まれ、育ち、恋愛、結婚生活、夫婦以外の相手との関係の話など、率直に質問をぶつけました。みなさん、性愛の記憶は実に鮮明で昨日のことのように丁寧に話してくださいました。よく聞いてくれたと、眼を輝かす方もいました。調査前は、性欲が弱っている高齢者はセックスを卒業した人ばかりと予想していましたが、事実は全く異なっていたのです」

驚くことに多くの証言から、インタビューした高齢の男性8割、女性7割以上がセックスに積極的であることが判明。80代、90代でも、性愛を楽しむカップルは珍しくなかったのです。しかも、これはごく一般的な高齢者のエピソード。地域やグループによる偏りがないかを確認するため、石川先生は同様の調査を時期と地域をかえ2回にわたり実施しましたが、やはり結果は同じだったそうです。

 


実際に高齢者はどんなセックスをしているのか?


では、実際にどんな性愛の形があるのでしょうか?インタビュー結果によると、人それぞれ。一部を抜粋してご紹介しましょう。

「今でも、薬なんか使わなくてもセックスを楽しめます」(93歳・男性)
奥さまが亡くなった後、現在は事務所の秘書(55歳、独身女性)とのセックスが癒し。歩行が少し不自由で、言葉を発する際に、時折くちごもるが、頭の働きは少しも衰えず、90歳を過ぎてもセックスは現役。

「閉経は早かったけど、セックスに問題はないです」(70歳・女性)
31歳で9歳年下の男性と結婚するが、夫の浮気で離婚。3人の子どもを養うためスナックに勤務。42歳で閉経し、55歳に再婚したが1年後に夫が病気で死去。その後も何人かの男性と同棲。「閉経後も、女はその気になればちゃんと男性を受け入れられる」と振り返った。

「ずっとベッドはいっしょ。セックスレスでも幸せです」(66歳・女性)
24歳のときに4つ上の男性とお見合結婚。子どもは2人。孫に恵まれ、結婚当時から今も夫婦一緒のベッドで休んでいる。7年前にご主人が前立腺がんになり、ホルモン治療をはじめてセックスは遠のくものの、ご主人は寝る前に奥様への親密なハグを忘れないのが日課。

「若いころと比べても、よろこびは変わりませんね」(72歳・男性)
EDになったのは3年前。いろいろ試してみても勃起せず。バイアグラに頼ると奥様を満足させられるまでに回復。最近は奥様からそれとなく求めてくることも。週2回のペースで夫婦生活を行っていて、奥様も愛液は今も充分に出ている。

「私はまだ女。好きな人ができたらセックスしたい」(70歳・女性)
51歳でご主人が亡くなった後は独り身。再婚話は何度かあったが、子ども達から猛反対。孫から慕われるおばあちゃん。「でも、私自身はまだ女なんです。これから、もしも好きな人ができたら、今でもセックスしたい」と告白。

「うつ状態からセックスレスに。徐々に再開すると落ち込みが改善」(65歳・女性)
年をとってからのセックスも頻繁。テレビで性的な場面をみると濡れてしまうこともあったが、息子さんの離婚騒動でうつに。夫の求めも拒絶。しかし仲良くしようと心掛け、受け入れるようになると、気持ちが明るく戻ってきた。

石川先生の聞き取り調査で、選択式のアンケート調査では知りえない赤裸々な実態が見えてきました。
話を聞いた多くの方は性の直接の結合(挿入)にこだわらず、長年連れ添ってきたパートナーと、愛を深めるスキンシップを持ってることも判明。
また、パートナーがいない場合でも、思い切って新しく望ましい伴侶を求めることや、異性への興味を持つことで、残りの人生を豊かにしていたのです。
驚いたのは、ほとんどの女性は閉経後でも性交痛などに悩まされずセックスを楽しんでいたこと。女性に男性を受け入れる気持ちがあれば、肉体もスムーズに反応できていました。

また、男性は若き日の女性遍歴を懐かしく話していたものの、今となっては奥様と仲良く過ごしている方がほとんどであったそうです。男と女は結婚を通じて、戦友のような関係になるのです。
「年老いてなおセックスに執着するのは嫌悪すべきと、私は考えていたのです。確かに世の中にもそういう風潮はあります。セックスはあまりにも魅力的な行為ですが、高齢者が体を絡めるさまは滑稽で見苦しいと考えるむきがあります。自分のやっている姿は見えませんからね(苦笑)。しかし、調査によって、セックスが人生にもたらす意味や価値に改めて気が付きました。また、医師としての立場から健康面への効果も知ることになりました」


高齢者の性のあり方とは?自然でおおらかなセックスが人生を豊かに


「高齢者のセックスは若い時のように激しいものではありません。パートナー同士が一緒に抱き合って過ごす。愛おしい相手と近づきたいという思いだけでも、充分に生きていく力になっていました。子どもの頃、『明日、遠足がある』と気分が盛り上がるのと同じ。ワクワクすれば脳内に幸せ物質のドーパミンが分泌されますが、セックスは最強です。ドーパミン分泌の減少はうつに陥る原因のひとつ。日頃からパートナーとセックスを通じたコミュニケーションを大事にすれば、うつや認知症の予防になるのは間違いないでしょう。実際、インタビューに応じてくだった高齢者は若々しく快活な方ばかりでした」

 

インタビューの回答の中に、愛情を確かめ合う夫婦の姿もあったそうです。

「夫婦がいっしょの布団で寝ることは、孫の前でもあたりまえ」(74歳・女性)
めぐまれたある農家のご夫婦は、広々とした日本間に布団を敷いて、抱き合って休んでいる。孫が遊びにくると、バタバタと周りを走り回る。幼い頃から祖父母が一緒に寝ているのが普通なので、孫たちは全く気にしていない。子どもは性のことを家庭の中で自然に学ぶのです。

「生殖能力がなくなった後も、季節に関係なく生涯、恋ができる特権は、動物の中でも人間だけに与えられたもの。仕事のリタイヤ、配偶者や近親者との死別、子どもの独立、脳梗塞・心筋梗塞の後遺症、パートナーの不治の病など、過酷な物理的条件の中でも、ただ生きるのではなく、相互の愛と性で支えあうことが、人間にはできるのです」

いくつになっても、セックスに対して興味を持つのは、恥ずかしいことでも、ふしだらなことでもなく、死ぬまで人生を豊かにするエッセンス。みなさんは、どうお考えになりますか?
高齢者が性を謳歌しているのと逆行し、セックスレスが増加している40代、50代の実態については、次回に詳しくお伝えします。

石川 隆俊

東京大学名誉教授。医学博士。1968年、東京大学医学部卒業後、がん研究所を経て、1989年、東京大学医学部教授。1997年、同大学医学部長。現在は公益財団法人喫煙科学研究財団理事長を務めるかたわら、がん発生のメカニズムを生涯のテーマとしている。 著書:東大名誉教授の私が「死ぬまでセックス」をすすめる本当の理由 (マキノ出版)、なぜヒトだけがいくつになっても異性を求めるのか(かんき出版)

ライター 熊本 美加

東京生まれ・札幌育ち。大学卒業後、PR代理店、広告制作会社を経てフリーライターに。更年期女性のヘルスケア、メンズヘルスが得意分野。「公益財団法人 性の健康医学財団」の機関誌編集員として、性感染症予防・啓発に加え、幅広く性の健康について情報発信に携わっている。


取材・文/熊本美加
撮影・構成/片岡千晶(編集部)


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