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恋も性も人生もこじらせているあなたへ、読むべき“恋愛指南書”

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昨年末に読んだ1冊の本。以来、私はこの数ヶ月間、心のつまずきを感じるたびに、その内容を頭の中で反芻し、そこに至る原因を自分の内側に探してみるようになりました。「こういうことか…」と腑に落ちると多少は心のモヤが晴れ、「仕方ないから次行こう」と前を向き直せるのです。

その本とは、二村ヒトシ著『なぜあなたは「愛してくれない人」を好きになるのか』(文庫ぎんが堂)。

恋も性も人生もこじらせているあなたへ、読むべき“恋愛指南書”_img0

『なぜあなたは「愛してくれない人」を好きになるのか』(二村ヒトシ著・文庫ぎんが堂)重要なキーワード「心の穴」を説明するため、“親子関係と生きづらさ”についても深い考察が。臨床心理士・信田さよ子さんとの特別対談でも熱く語られていて読み応えたっぷり。またあとがきでは、二村さんご自身が「心の穴」と葛藤するくだりもあるなど、本編後も何重にも楽しめる内容でした。

二村さんと言えば、AV監督である傍ら、恋愛や性愛についての著書やコラムを数多く執筆。男女関係に悩む若者たちに多大な影響をもたらしているだけでなく、著述家の湯山玲子さんや“女性マネジメントのプロ”の異名を持つ川崎貴子さんなど、女性の生き方に一家言ある論客との対談も多く、人としてモテる方なのだろうなぁということは想像に難くありません。

本書は、タイトルや装丁からも想像できるように、恋愛や性をこじらせている女性たちに向けた恋愛指南書。40代も半ばになり、恋愛がテーマの本を手に取ることはほとんどなくなりましたが、若い人にすすめられて読み進めるうちに、これは恋愛やセックスに限らず、多くの女性が抱える“生きづらさ”のワケを、恋愛という人間関係を通して解説しているのかもしれないと思うようになりました。

 

ネガティブな感情が湧くところ。
誰もが「心の穴」を持っている


全体を通して軸となるのは、「心の穴」というキーワード。

「心の穴」とは、二村さんオリジナルの言葉で、本書以外の著書やコラムにも頻繁に登場しています。

「心の穴」というのは、自分でもコントロールできない(もしくは自分でコントロールできてると思っていても実際にはそれに操られてる)「感情や行動のクセ」であり、その人の欠点や魅力のみなもと。(中略)「生きづらい」という感覚があるとしたら、それがあなたの「心の穴」です。<※以下、青字は本書より引用>  

自分の中心にぽっかり穴が開いていて、寂しさや嫉妬や劣等感といったネガティブな感情と同時に、“その人らしさ”が湧き出ているところ。「心の穴」は、親や幼少期の環境によって“すべての人が開けられる”ものであり、それをふさぐことはできません。

“幸せそうに見える人”は、「心の穴」と折り合いをつけている人。

まずは「こういう状況ではこういう気持ちになる」「こんな行動をとってしまう」といった「心の穴のかたち」を知り、それをありのまま受け入れること。その「自己受容」だけが、「心の穴」と折り合いをつける方法なのだそうです。
 

まじめな女性は、
「すべてをちゃんとやりたい」と思い過ぎている


ジェンダー論を語ることも多い二村さんですが、5章では、“現代社会の仕組みが、いかに女性を「自己受容」しづらくさせているか”についても説明しています。

特に心に刺さるのは、5章−2「しんどい女性は『やらなくちゃいけない』と思いこんでいることが多すぎる」。

あなたは「もっとキレイになって、恋もして、仕事もがんばって、いずれは結婚をして、出産や子育ても、しなきゃ。そしてその後も女であることを忘れずに。いずれまた、やりがいのある仕事に戻りたい…」なんて思っていませんか?(中略)

どのような人生を選択しても、それが自分の意思だったとしても、自分自身のあり方や生き方に疑問を持ち「自己受容できない」でいる女性が、とても多いんです。(中略)

まじめな女性たちは「すべてをちゃんとやりたい。やらないといけない。できないのは、くやしい」とか「完璧にできない私は、何かが欠けてる」と思いこんでいる。

実は、このくだりを読んだ時にふと頭に浮かんだのが、たびたび編集部で耳にしてきた“ミモレの読者さん像”でした。

「まじめな頑張り屋さんが多いんですよ。みなさんこれまで一生懸命やってきたはずなのに、40、50代になって振り返ると何も残っていないと感じてしまったり、自分のダメなところにばかり目がいってしまったり…」

日頃から減点法で自分を見ている自分。いつまでも何かをあきらめきれない自分、“ゆっくり休む”ことに安心できない自分…。それはすべて、私自身の「心の穴」ですが、もしかしたら皆さんも同じように、自分で自分を苦しめてしまうような“生きづらさ”を感じることがあるのではないでしょうか?
 

“恋”とはキリのない欲望。
“愛”とはありのまま受け入れること


直接的な恋愛やセックス論については、“答え合わせ”をする感覚で読むことができるかもしれません。

「恋する」とは「相手を求め、自分のものにしたがる」こと。
つまり恋とは、「欲望」です。(中略)

「愛する」ということは「相手を肯定する」ことです。
つまり相手が存在していることを、心から「いい」と受け止めることです。

人が“恋”をするのは、自分の中に「変わりたい」「もっとマシな自分になりたい」という願望があるからだそう。恋は“自分を変えてくれそうな人を好きになる”のであり、それは言い換えれば「心の穴」を誰かに埋めてもらおうとする行為。相手のことが好きと言いながら、実は自分にばかり熱中しているのです。

一方、誰かを“愛”するためには、自分の中の何かをあきらめなくてはならないそう。なぜなら愛は、相手を“自分と同じように欠陥のある人として受け入れる”ことだからです。あきらめるのは、“恋のときめきやワクワク感”かもしれないし、“誰かに成長させてもらうこと”なのかもしれません。ただし二村さんは、その時は「明るい光の方を向いてあきらめよう」と提案します。求めていたものは手に入らなかったとしても、もっと自分にしっくりくる、別の素敵な何かを得られるかもしれないのだから。

「恋」を失いそうな時、相手に執着したくなる自分の気持ちに気がついたら、こう思ってみてください。
「自分にできないことは、やらなくていい」(中略)

やっぱり何かをあきらめきれない、逃げ出したくなっている自分に気がついたら、こう思ってみてください。
「もうそろそろ『もっと! これ以上!』って思わなくていい」

手に入らないものを手に入れようとする「努力」があなたを苦しめるなら、それは欲しがらなくてもいいものなのです。

ここでまた気づかされるのは、“恋”は、“目標”や“理想”や“未来”などと置き換えることもできるのではないかということ。仕事も子育てもおしゃれも、もしかしたら恋愛も。時には、これまで頑張ってきたことを振り返り、素直に満足できるポイントを探してみるといいのかもしれません。

『なぜあなたは「愛してくれない人」を好きになるのか』。恋愛論のつもりで読み始めたら、自分の根底にある人生観や“生きづらさ”と向き合わされる本でした。年末以来、上手くいかないことが起こるたびに「いまのは『心の穴』のどれだ?」と考えてみることにしています。

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普段、資料以外の本は読んだらすぐに売ってしまう方ですが、途中から「これは人に話したくなる内容だ」と思い、付箋をつけたり線を引いたり。なかでも「自己受容できるようになるための方法」として挙げられていた「感情は、考えないで感じきる」「自分の『未来』を忘れてみる」はしみじみ納得させられました。 

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ライター 村上 治子

1973年生まれ。大学卒業後、アパレル商社、広告制作会社を経てフリーライターに。主にファッションと占いの記事を執筆。今後は、更年期や閉経後の性のことについても探っていきます。興味があるのは「女性らしさ」や「コミュニケーションとしてのセックス」。趣味は10年習っているフラ。夫と思春期の息子がいます。


構成/片岡千晶(編集部)


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