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10代の性の現状と学校の性教育〜日本の性教育のいまと未来〜

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肝心なことを教えてくれない
日本の性教育


−−− 現在、日本の学校の性教育はどのような内容なのでしょうか?

染矢:そうですね、その前にまず世界的な流れを見ると、性を“生殖の性”としてだけでなく、人間の生涯にわたる基本的な要素として、多様性を含む人との関わり合いのなかで構築されていくものとして捉える考え方が広まりつつあります。その上で、科学やジェンダーの平等に基づく性教育をしていきましょう、というのが世界のスタンダード。そんななかで日本では、依然として生物学的な内容しか言及されておらず、その内容も、実生活で役立ちそうなことなど、肝心なところは教えてくれないのです。

たとえば、小学校3〜4年生になると初潮や月経について教わりますが、月経の仕組みについて習うだけで、月経痛や月経不順になった時の対処法については触れられないことが多いようです。その結果、月経痛が重くても我慢して当然と思ってしまったり、月経不順で生理が来ないことをラッキーなことと放置してしまったり…。また、男子についても、射精や性欲との向き合い方、夢精した後の処理の仕方など、まだまだ教育が足りないように感じます。

−−− 私たちが習った約30年前と何も変わっていませんね…

染矢:現在の学習指導要領では、小学校で「受精に至る過程は取り扱わない」、中学校では「受精・妊娠を取り扱うものとし、妊娠の経過は取り扱わない」という記載があり、「セックスについて教えてはならない」と解釈する学校の先生も多くいます。“精子と卵子が結びついて受精する”ことはわかっても、男女それぞれの体内で作られたものがどのように結びつくのか、肝心な点については伏せられたままなのです。

LGBTなどセクシュアリティの多様性も性教育における重要な学習課題ですが、保健体育の学習指導要領や教科書には「思春期になると異性への関心が芽生える」とあり、性的マイノリティについての言及がありません。2020年の指導要領の改訂に向けて、LGBT当事者らの呼びかけで「異性に関心を持つとは限らない」という項目を入れて欲しいと文部科学省に働きかける動きがありましたが、「現段階では社会の理解が及んでいない」等の理由から受け入れられませんでした。本当は、社会の理解が進んでいないからこそ教育が必要なのですが。家庭科や公民科等の教科書でLGBTを取り上げるところも増えていますが、指導要領の改訂タイミングは、ほぼ10年に1回。子どもたちのニーズや実態にあった性教育が行われる環境を整えていくためには、まず大人の性教育への意識をアップデートする必要性を感じます。

 

 

“セックス本番で初めてコンドームを着ける”
という状況の危うさ


−−− ピルコンさんの調査結果を拝見して、高校生の性の知識が浅いことにも驚きました。

染矢:2016年に高校生を対象に行ったアンケートでは、排卵が起こる時期や低用量ピルが避妊に効果的であること、月経の問題を改善できることについても、約60〜70%の高校生が「わからない」と答えています。

特に低用量ピルは、たとえ月経トラブルの改善のために飲んでいたとしても、「ピルを飲んでいる=生でセックスするための薬」だと思われてしまうから友には見せられない、という話を高校生から聞いたこともありました。

−−− 仮に親がピルのメリットを知って子どもに勧めても、それが誤解や偏見に繋がるかもしれないということですよね。学校の性教育の必要性をあらためて感じます。他に顕著な問題点はありますか?

染矢:色々ありますが、予期せぬ妊娠、中絶、性感染症が挙げられます。10代の妊娠は数としては減少傾向にありますが、2017年の10代の出産数は約1万件、中絶は年間約1万4,000件にのぼり、まだ多く存在しています。10代で妊娠すると学校を中退せざるを得ないケースも多く、貧困のリスクに繋がります。中絶は心身に大きな傷を残しますし、そもそも中絶とはどのようなことが行われるのか、学べる機会もほとんどないでしょう。

性感染症については、クラミジアがいちばん多く身近な病気で、性交経験のある高校生の約10人に1人が感染しているというデータも。自覚症状が乏しいため感染しても気づかず、将来的に不妊の原因になることも多いのです。

−−− 避妊の意識も低いでしょうか?

染矢:正しい知識を得られる機会もなく、低いですね。でもそれは高校生に限ったことではありません。日本で主に使われている避妊法は、約80%がコンドーム。残りの約10〜20%は、不確実な膣外射精です。

そして、そのような現状にもかかわらず、コンドームの使い方を学校で教わることはごくまれです。むしろ東京都の「性教育の手引き」のなかには、コンドームについて「小・中学生にコンドーム装着方法を指導するのは適切ではない」といった記載があるくらい。コンドームは、理想的な使用でも妊娠確率は年間2%で、一般的な使用での年間失敗率は18%ほど。つまり1年間に5〜6人にひとりは妊娠する確率です。やはり正しい使い方を知る必要がありますし、コンドームは性感染症予防には有効ですが、避妊については、女性は低用量ピルなど他の選択肢があることや、もし避妊に失敗した時はアフターピル(緊急避妊薬)があることを知るべきだと思います。

−−− ピルコンさんに寄せられた声の中に、高校生の男の子から「初めてコンドームをつけるのが実際のセックスの場面になってしまうのは、避けなければいけないと思う」といったものがありましたね。とても印象的でした。

染矢:私たちは性に関するメール相談も受け付けていますが、「コンドームが破れました。どうしたらいいですか?」という声は少なくありません。なかには中高生や「初めてのセックスで」という人もいます。緊急避妊も知らないし、妊娠検査すら知らない。「熱っぽくてダルいのですが、これは妊娠でしょうか?」と相談されることも。

−−− 娘が熱を出しても、まさか妊娠とは気づけないと思います。

染矢:彼女たちは「親には絶対にばれたくない」と言います。「妊娠していたら親に言わなくてはいけないですか?」とも。

−−− 娘が妊娠していることを知らないなんて…、親としては恐ろしいとしか言いようがありません。

染矢:普段から、ご家庭内で性のトラブルについて話せる環境を作っておくこともとても大事なことですが、何より、実際に困ってから「どうしよう!」と相談するような状況を変えていきたいと考えています。もしもの事態に合う前に、「どんなことに困る可能性があるのか?」 また「困った場合はどうしたらいいのか?」についての情報を事前に学んでおけるようにすること。そして何より、そういう状況に陥らないよう未然に防げることこそが大切なのではないでしょうか。

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ご自身も2歳のお子さんのママ。早速、身体の名称について教え始めるなど性教育をスタートしているそう。その詳しい内容については、インタビュー後編でお届けします。


「日本の学校教育において、性行為は“非行”である。」この価値観が覆されない限り、学校の性教育で、子どもたちの性のトラブルに先回りできる情報が発信されることは難しいかもしれません。後編では、家庭で性教育を行う際の心構えや、性の先進国で実際に行われている性教育のお話をお伺いしました。どうぞお楽しみに!

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染矢 明日香

NPO法人ピルコン理事長。石川県金沢市出身。自身の経験をきっかけに、日本の望まない妊娠・中絶の多さに問題意識を持ち、慶応義塾大学在学中に「避妊啓発団体ピルコン」を立ち上げ、2013年にNPO法人化。医療従事者など専門家の協力を得ながら若者や保護者を対象とした性教育やライフプランニングを学ぶ講演活動やコンテンツ開発を行う。学生ボランティアを中心に身近な目線で性の健康を伝える「LILYプログラム」の出張講演をこれまでのべ150回以上、2万人を対象に実施。思春期からの正しい性知識の向上と対等なパートナーシップの意識醸成に貢献している。“人間と性”教育研究協議会東京サークル研究局長。著書に『マンガでわかるオトコの子の「性」 思春期男子へ13のレッスン』


撮影/浜村達也
取材・文/村上治子
構成/片岡千晶(編集部)


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