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セックスの価値観をリセット①「挿入主義から解放されよう」

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今日から始まる3週連続インタビューは、“知性派AV男優”として知られる森林原人さんのインタビューをお届けします。ご本人の詳しいご紹介は、先日の大森編集長のブログをご覧いただくとして、取材当日に伺ったお話は、これまで私たちが数十年間抱いてきたセックス観を覆す内容ばかり。

第1回目は、「セックスとは?」という定義そのものについての新提案。セックスが身近にある方にも、そうでない場合にも、セックスが、手を伸ばしてみたくなる新鮮なものに見えてくるかもしれません。

私たちから見れば「天文学的!」と言いたくなるような経験数と、心理学、脳科学、人類学等々さまざまな学問の視点を取り入れて、性とセックスをアカデミックに紐解こうとする森林さんは、まさに“セックスの賢人”。


女性にだって性欲はある。
湧き上がるものをなかったことにはできない


−−− 今年は、“性”をテーマとした講演会を、全国9都市で開催されたそうですね。聴講された方々の男女比や年齢層はいかがでしたか?

森林:5〜10月まで、全国各地で500名以上の方々にお会いしましたが、年齢層は30〜50代が多く、男女比については9割以上が女性でした。

−−− 性やセックスがテーマなのに、女性が圧倒的に多いのは意外です。『女子SPA!』のコーナーやご著書のなかでも、多くの女性から悩み相談を受けていらっしゃいますが、女性たちに共通するセックスの捉え方や思い込み、勘違いなどはありますか?

森林:そうですね、セックスの思い込みはあると思います。そのひとつは、性欲はコントロールできるものだと思っていることです。僕はまず、性というものを捉えようとする時、“人間を突き動かすもの”を「思考・本能・感情」の3つの要素に分けて考えます。性欲は、本能的なもの(欲望)だったり感情から生まれたりするもので、それらは意識せずとも勝手に湧き上がってくるもの。湧いてきたものを認知して対処することはできたとしても、湧き上がってくること自体をコントロールすることはできないのです。

イメージとしては、感情の川があって、自分はその真ん中にある岩の上にいるとします。流れてきた感情にぶつかったり、受け流したりということはできたとしても、流れ自体を堰き止めたらいつか決壊してしまう。つまり、湧き上がってくる性欲を、なかったことにはできないんですよ。

ただ、それなら湧いてきた性欲は自由に解き放てばいいかと言うと、それはもちろん違います。そんなことをしたら、思考や理性で成り立つ社会では暮らしていけませんから。大切なのは双方のバランス。だから講演会では「“性欲のあるありのままの自分”と“社会性”の両立をめざしてください」とお話しすることにしています。

 


男性視点の固定観念を変えよう
「挿入=セックス」ではない


森林:そしてもうひとつ。これは、たぶん男女問わずほとんどの方が持っているセックスの固定観念だと思いますが、僕はこれこそが、いろいろな悩みを引き起こす要因のひとつなのではないかと思っています。

−−− それは一体、何なのでしょうか?

森林:それは、セックスの概念が「勃起・挿入・射精」になっていることです。でも、よく考えてみてください。これらは全部“男の条件”なんですよ。セックスをする時は、「勃起がないと始まらない」「挿入はセックスそのもの」そして「射精したら終了」。でもそれだと、どこまでいっても男性主導のセックスから抜けられないんです。

−−− なるほど…、本当ですね! 指摘されるまで疑う余地もありませんでした。目からウロコです。でも、なぜみんなそんな風に思い込んでいるのでしょう?

森林:なぜならそれが、生殖を目的としたセックスの条件だからです。学校がそれ以外の“セックスの可能性”を教えてこなかったからですよ。人間の身体は、挿入や射精がなくても快感を得られます。だけど、いつまでもそれが正解だと考えているから、ナシでは成立しない気がしてしまう。だから肝心なのは、まず定義を変えることです。「挿入主義」から解放されることなんですよ。

「人間には、他の動物と違い“思考から生まれる性欲”もある」といったお話も。「たとえば、支配欲や承認欲求から来る性欲。セックスが何か目的を達成するための手段になっているということ。夫婦間の“おつとめセックス”や“妊活セックス”もそう。それが悪いわけではありませんが、本能と感情から生まれ相手にのめり込んでいくセックスも忘れないで欲しい。」


挿入主義から離れれば
男も女もラクになる


森林:僕が考えるセックスの定義は「お互いの合意のもとに触れ合うこと」です。セックスの本質は、他でもない“触れ合うこと”。余計な思考は持ち込まず、目を見て、キスをしたり、抱きしめ合ったり、撫で合ったり、触れる喜びに身をゆだねて、相手と繋がろうとすることなのです。

セックスの定義から「勃起・挿入・射精」を外せると、男性もラクになります。どんな男も遅かれ早かれ、勃起できなくなりますから。先日、対談させていただいた男性学の田中俊之先生によると「男は一生、競争させられる」と。男は男性機能でも競い続けているんです。「何回できる」「まだ朝勃ちするよ」、そのうち「オレはもう枯れてるからさ」なんて自虐自慢が始まって…

−−− なんだか、せつなくなりますね。

森林:男性器から解放されたいと思っても、女性から期待されてしまうこともありますし。

−−− ぐるぐる回っていますね。女性も男性が勃起してくれないと「自分に魅力がないのかな」と落ち込んだりします。

森林:女性が「自分のせいかも」と思い悩むことは本当に多いのですが、実際は、勃たない原因は、体調や精神状態など大半が男性側の問題。女性のせいで勃たないなんて1%もありませんよ。

少し話は逸れますが、女性は男性が「若い方がいい」「美人の方がいい」と思っているはずと言いますが、実際は好みって一概には言えません。一般的に「若い子がいい」という男が多かったとしても、実はそれですら自分に言い聞かせ、思い込ませている場合もあるんです。なぜそうなるか? 熟女好きより若い子好きと言った方が、まっとうな人間に見えそうだからです。変わった趣味や変態だと思われると恥ずかしいから、つい予防線を張ってしまう。でも、性欲は千差万別。でなきゃAVのジャンルがあんなに細分化されるわけないんですよ。

女性は幼い頃から、「美しくあれ」と言われ続けるから、その価値観を外すのは至難の技かもしれません。でも、価値観はひとつではありません。世界的に見れば多様性は理解できるのに、自分の目の届く範囲の価値観だけで生きようとするから苦しくなるんです。周囲と同じだと生きやすいかもしれませんが、その価値観はあくまでも他人軸。自分の幸せを掴むためには、自分軸を見出すことも欠かせないんですよ。

−−− あらためて、人はたくさんの社会的な価値観に縛られているんですね。

森林:だけど、セックスは完全にプライベートなものですから、自分たちのルールでいいんです。セックスをする時に社会的な価値観はいらないんですよ。

『anan』セックス特集号への考察も秀逸。「女性の性欲を肯定するセックス特集が出た時、男たちは喜んだんですよ。でもフタを開けてみたら、これまでの男たちのやり方を痛烈に批判していたので、男たちは逃げ腰になってしまい、結果的に女性たちはセックスに辿り着けなくなったんです。男性も、女性の性欲を受け止められるように変わらないといけませんね。」


性器以外のつながりが
究極の一体感をもたらす


−−− 挿入主義から解放されたら、その先にはどんなセックスが待っているのでしょう?

森林:僕は、セックスでいちばん大切なのは「性器以外の部分でどれだけ繋がれるか」だと思っています。もちろん挿入があっても構いませんが、それ以外のところで自然に繋がれるようになった時、得られるのは「心から繋がれた」というかけがえのない一体感です。実際にレズビアンやご年配のカップルは挿入のないセックスをしていますが、もしかしたら僕たちよりもっと精神的な喜びを得ているかもしれません。性器へのこだわりから離れれば、余計なプレッシャーがなくなるし、何歳までだってセックスできるんですよ。

さらに僕は、人間が生きていく上での大きなテーマは「孤独をどう克服するか?」だと思っています。

人は、この世に生まれ落ちた瞬間からひとりの人間になります。赤ちゃんの頃は、親に抱きしめられたり家族に囲まれることで温もりをもらい、成長すると、友達や恋人、仕事の仲間や自分の家族を作ったりして、孤独を克服するための関係性を増やしていくのです。そんな人生において、セックスは、何よりも孤独を克服したという実感を得られる行為。性器に限らず粘膜の接触があるほど肉体が密着する行為なんて、セックスをおいて他にありません。さらに、精神的な一体感も加わった時に得られるのは、「ありのまま受け入れられた」という全肯定感。「自分は自分でいいんだ!」と心の底から納得できるのです。

ただし、忘れてはいけないのは、その体験は、何か“永遠の約束”を手に入れられるものではないということです。でも、それなら意味がないかと言えば、決してそんなことはなく、一度でもその感覚を得られると、それはその後の人生にとって“お守り”になってくれるんですよ。人間は生涯、本質的に孤独から逃れられることはありません。でも、「すべてを受け入れられた」というそのお守りは、心を強くし、孤独との新たなつき合い方を教えてくれるはずです。



「勃起や挿入にこだわらないセックス」や「かけがえのない一体感」……、セックスの新たな可能性を感じられたのではないでしょうか? 次回は、「結婚生活とセックスのバランス」に関するお話をお届けします。

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森林 原人

1979年横浜生まれ。地元では神童と呼ばれ、中学受験で麻布、栄光、筑駒、ラ・サールのすべてに合格し、筑駒に入学。そこで本物の天才たちを目の当たりにし、人生初の挫折を味わう。その後はすべての情熱をエロに傾けるようになり、大学1年の時にAV男優のキャリアをスタート。現在まで業界に数少ないトップ男優としてひた走る。男優歴19年。近年では、オンラインサロン「森林公園」やウェブサイト「リビドーリブ」や講演会などを通じて、性やセックスがもたらす幸福論を発信。今年全国9都市で開催した講演会ツアーも大盛況を博した。著書に『偏差値78のAV男優が考える セックス幸福論』(講談社文庫)、『イケるSEX』(扶桑社)、『8000人を抱いたエリート校出身AV男優・森林原人のケーススタディで学ぶ 「人生最高のセックス」でもっと気持ちよくなる』がある。


撮影/浜村達也
取材・文/村上治子
構成/片岡千晶(編集部)


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