「まさか、そんな行動をとるなんて……」予想外過ぎる連絡
「っていうのよ、ちょっと、これってどういうこと!? もしかして確信犯で、熟年離婚に向けて計画的に動いてたとか!? うわっ、どうしよう、だとしたら嫌な予感しかなしないよ~」
月曜日、職場のランチタイムに、涼子は隣の編集部の同僚、美佐を呼び出して不安を吐き出した。
もぐもぐときのこグラタンを食べながら、美沙はふんふんと話を聞いている。新卒で入った小さな出版社の同期6人のうち、残っているのは涼子と美佐だけ。同僚と言っても、もう20年以上苦楽を共にしてきた、親友のような戦友のような関係だ。
「あー、それはまずいわよ。絶対ダメ。戦略的な別居ね。うちの義両親みたいになるわよ」
「ぎえええ、あの『いないことになってる』お義母さん!?」
涼子は、美佐の『一人娘のお受験秘話』を思い出す。もう5年ほど前のことだが、美佐はこの先共働きで中学受験をサポートできる気がしないと叫んで大学までついている小学校の受験を決めた。
伝統的な女子校のため、願書には同居の家族全員で一緒に撮影した写真を添付することになっていた。お受験ファミリー御用達の写真館に行くことになり、困ったのは長年別居していた義理の母の扱い。不仲がたたってもう10年以上別居していた美佐の義両親は、義父は美佐たちと一緒に世田谷の大きな一軒家に、義母は目黒のワンルームのマンションを借りて住んでいた。
しかし家庭環境を重視されがちなミッション系の女子校で、それを書くのも気が引ける。「非の打ちどころのない家庭」を演じて不安要素を取り除きたい美佐は、義母は夭折したという設定で、「なかったこと」にしたのだ。願書の家族構成欄と集合写真には受験生である娘の美波と両親、そして「おじいちゃん」だけが登場した。そんな扱いになるくらい、義母のキャラは強烈だったと記憶している。
聡明な美佐がそんな行動に出るほどイザコザがあったらしいことは、涼子も察していた。そしてそんな境遇を、「世田谷の邸宅を相続できるのは羨ましいけれど、義両親と近くに住んだり、同居したりすると本当に大変ねえ」と気の毒に思っていた自分をブン殴りたい。
なぜ自分にはちっとも関係ない話だなどと思ったのだろうか。
「で、でもさ、うちの義母は一応自分たちのお金でマンション買ってるし、まあ、その点では……同居ってことにはならないはずだしね」
涼子が自分に言い聞かせるように頷くと、美沙は食後のコーヒーを飲みながらじっとりとこちらに視線を寄こした。
「っていってもねえ、生活費もかかるわけだし……。失礼だけど、結局一昨日の会食もぜーんぶ晃司さんが出したんでしょ? 結婚式のハワイのときだって、なぜか晃司さんが宿泊代とかお小遣い渡してたって言ったじゃない? 私あの時からちょっとずれてるなあと思ってたのよ。この先のことを考えると、タクシーで10分くらいの距離なんて、あってないようなもんだと思うけどね」
親友の残酷なまでに正確な記憶力に八つ当たりしたい気持ちを、涼子はぐっとこらえる。
そうだった、考えてみれば数少ない人生の要所の接点で、どうにも腑に落ちない義母の行動はいくつもあったのだ。孫のお祝い金にしても、こっちはビタ1文貰っていないが、晃司の姉・紘子のところの孫は私立に行ったという。それを誘導したような口ぶりだったから、もしかして援助をしているのかもしれない。だとしたら、これぞ時々耳にする「孫差別」というやつではないか。
「やめて~! 近居、本気でイヤ!」
思わず声が裏返った涼子のスマホが振動する。ハッとしてスワイプすると、それは今日神戸に帰るはずの早苗からのメッセージだった。
――涼子さん、2日間お世話になったわね。借りた鍵は約束通りマンションのポストに入れておきました。そうそう、これからのために、私のマンションの鍵を近所のミスターミニットでコピーして、ダイニングに置いておきました。お宅のマンションの鍵もついでにコピーさせていただいたから、交換ね。
「ぎゃあああ、嘘でしょ!? そんなの義母だからって許されると思ってる!?」
ムンク叫びのごとく咆哮する涼子を、「義母ウォーズ」の先輩である親友は、いたわるような目で見てから、肩にポンと手を置いた。
次々と繰り出される義母の予想不可能な動きに、困惑した涼子はついに……?
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