大事なのは、やりたいことじゃなくて、
やることなんじゃないの?

 

昼田「可能性を広げない方がいいと、本にあります。稲垣さん自身もピアノや書道など、いろんなことをやっていらっしゃいますが、人の可能性ってどう思いますか?」

稲垣「今って何でもかんでもできる可能性がある時代にあって、世の中の多くの人が『〇〇したい』でいっぱいだけど何でもかんでもはできないから、やりたいこともできていない自分にネガティブな感情を持ってしまっている気がするんですよね。実際は人の時間って無限じゃないから、できることってほんのちょっとなんですよ。私は今、けっこういろんなことに手を出してますけど、それができているのはみなさんが当たり前にやっていることをやってないからなんです。まず買い物しないだけで、すごい時間ができます。買いに行くだけでなく情報収集の時間を含めて、買い物ってすごくエネルギーを使うんです。買い物って楽しいと思っていたから気になっていなかったけれど、やめてみるとすごい無駄なことをしていたと思うんですよ」

昼田「買い物は立派な家事と書いてあって、ハッとしました」

 

稲垣「買い物だけでなく、料理も凝ったものを作らないし、銭湯だから風呂掃除もしないし、それでも今の生活でいっぱいなんです。可能性を追求することはもちろん、みなさんの自由だけど、実際にできることは少ししかないんですよね。あれもやりたいこれもやりたいということが素晴らしいような風潮があるし、やりたいことがいっぱいあることこそが豊かな人生という人もいます。でも、大事なのはやりたいことじゃなくてやることなんじゃないの? っていう。やりたいのにできないってことはけっこう自分を傷つけますからね」

昼田「落ち込むし、やれていない自分に焦ったりとかします」

稲垣「世の中がそういう宣伝に溢れすぎてるから、何かをやってる人が輝いてるように見える。それをやってない自分はキラキラしきれていないんじゃないかみたいなことを思わせる情報がすごいじゃないですか。今だと推しブームだから、推しがいない私はダメなんじゃないか、いやそれ関係なくない? みたいな」

昼田「(笑)私も作らなきゃ、みたいになったり」

稲垣「推しがある人はそれを楽しめばいいけれど、推しがいない自分にコンプレックスをもつ必要は全然ないんじゃないのって思うんですけど、ブームになっちゃうと自分は足りていないと思い込んでしまいがちなんですよね」

 


幸せのハードルを地面に
めり込むぐらいにしておけば、
つまずくことも絶えず越えられる


昼田「私もミモレ世代で、白髪やシワとか見た目も変化してきて。これから先、見た目だけでなくいろんなものが失われていくことに対しての不安や恐れはどんな風に前向きに捉えたらいいんでしょうか?」

稲垣「失われていくことにショックを受けていると、40過ぎぐらいから死ぬまでショックの人生になっちゃいます。半世紀にわたってガーンって言いながら生きていく。それを選択するんですかって話なんじゃないでしょうか」

昼田「(笑)そうですよね」

稲垣「私はそれは絶対嫌だと思ったんですよね。だって年をとればいろんなものが失われていくってことは絶対分かってるじゃないですか。考え方を意識的に変えていこうと思ったのは、うちの母のことが大きかったです」

昼田「家事がお好きで、完璧にこなしていたお母様が、認知症でできなくなっていく話は読んでいて胸がつまりましたし、自分の老後について深く考えさせられましたね」

稲垣「うちの親の世代は、どんどん上っていくことが良いこと、年をとっても諦めちゃいけないという価値観が強いんですよね。それはそれで悪いことじゃないですけど、その価値観のまま年をとって実際に病気とかになってしまったら、本当に絶望になっちゃうことに気づいたんです。だから、自分の衰えよりも、やりたいを減らすことのスピードを早めていけば常に余裕なんじゃないかと」

昼田「なるほど」

稲垣「やりたいことがすっごい減っていれば、できることのほうがまだ多いじゃないですか。やりたいけどできないっていうことを増やしちゃいけないって思ってるんですね。だから人生の目標を超スピードで下げる。よく言うんですけど幸せのハードルを地面にめり込むぐらいにしておけば、つまずくことも絶えず越えられるじゃないですか。それが一番大事だと思ってます」

昼田「めり込むぐらい(笑)」

稲垣「例えば億万長者になりたいとかスーパーモデルになりたいとか、それに近いことを案外みんな思ってるんですよ。だからどんどん諦めて、残ったものをこれだけやろうっていうことを大事にするように変えていかないと、いつまでも『あれもやりたい』『これもやりたい』って本当に負けが込みますよ。絶望だけになっちゃいます」

 

稲垣「究極、みんな死ぬときは病気して動けなくなって死んでいくじゃないですか。ピンピンころりができる人はほんのひと握り。最後はやっぱりボケとか寝たきりになることを想定しておくべきなんですよ。そう思ったら、寝たきりでも天井を見てそこで楽しめるかどうか。たぶん瞑想ってそういうことじゃないかなと思うんですけど、瞑想って何もせずに呼吸してることを楽しむ。あれが本当に楽しかったら別に寝たきりになっても『ただいま瞑想中です……』みたいな(笑)。

昼田「(笑)。私は瞑想をやっているので、何もしていないけれど幸せっていう感覚は分かります。」

稲垣「それが人生の勝利者なんですよ。それを寝たきり=不幸だとしたら、最後は全員不幸です。何を幸せと思うかは自分で決められますよね

次回は10/29(日)公開予定、テーマは多くの人が気がついていない「持っていることが不安にさせている」というお話! お楽しみに。


インタビューの裏話。
自分がよさを見つけてくる楽しさ。

 

取材が行われたのは、稲垣さんのお気に入りのカフェで。「これなんてその辺に生えている雑草が飾ってあるんです。こういうのを見ると、お金で手に入るものよりも、お金で買えないものの方が大きいなと思います。自分がよさを見つけてとってくるものの方が深密じゃないですか」と稲垣さん。自分の意識さえ変われば、楽しみも幸せも目の前にたくさんありますよね。花はつんでも、葉っぱをつむことはなかったな。さっそく私もやってみよっと!


撮影/砂原文
取材・文/昼田祥子
構成/出原杏子
 

 
 

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